心頭を滅却すれば火もまた涼し (ページ5)

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❁ ページ5

コンコン＿＿
　戸を叩く音で目が覚める。今日はすんなりと起きれた、珍しい。小窓を見れば外が微かに明るい。日が昇りきっておらず少し肌寒い。暖かい恰好をしようか、と考えながら体を起こし戸の外に居る婢女の佳子(けいし)に声を掛ける。

「ん～…

着替えたらそっちに行くから…」

　と言いながら布団を被りなおす。嗚呼、駄目だ、眠気が……。

「いやッ＿＿

駄目だって！！起きなきゃ！」

　布団を剥ぎ取り勢いよく起き上がると何故が体が傾いた。

「んぇ？

＿＿ッうお！？」

　ドンッッ＿＿
　寝具から盛大な音をたてて落ちてしまった。腰や背中が嫌に響く。

「痛ッ＿＿！！

うぅ～最悪だ…」

　痛い、痛いと言いながら着替えている私強いと思う。

　乳白の上襦に、三種の花が刺繡された裙。今日は濃赤(こきあか)色の帯と臙脂の披帛にしよう。着付けには不慣れだったのに時間と経験がどうにかしてくれたお陰で綺麗に着れるようになった。動きやすさ重視と好きな色が入っているのしか着ないので最近では飽きてきたかもしれない。

「今度…市場の仕立て屋にでも行って見るか。

けど、私センス無いから一人では選べないし…」

　今着ている上襦と裙は先代の烏妃・麗娘(れいじょう)に見立ててもらった物で結構気に入っている。ジッとしていられない質で気付いたら迷子になる程動き周っている。呆れられ選んでもらったものだ。

　麗娘はもう居ない。死んでしまった。二年前、ひっそりと私と寿雪に見守られて…。

「会いたいと言えば…それは罪になるでしょう。

　何故望まなかったの？無力なわけではなかったのに…」

　傍に置いてある姿見を一瞥する。着飾られた己の姿が酷く醜く、憐憫に思えた。鏡を眺めている時が一番心が落ち着いた。本当の存在(自分)を思いだせるから＿＿。

「……そろそろ、行かないと。

　佳子が待ってる」

　名残惜しい、けど、役目(恩)は果たさないと。閉め切っていた小窓と掛けてある薄絹の目隠しを全開にして私の宮＿＿歪境(わいけい)宮を後にした。

＿＿＿＿＿＿

？？「ねぇ、知ってる？

　歪境(わいけい)宮の魔女のこと」

　何時かの宮女の定番の噂。何人かが集まり興味を示している。新人の宮女はもっぱら噂話を好む。刺激欲しさに…。

？？「烏妃のように妃の位はないけれど、

　死者の蘇りから、神殺し＿＿何でもできるの。

　代償さえ贖えば…ね」