卅 ページ31
蝶屋敷までカナエを送り届けたA。
一段と濃くなったその【色】を睨みつけながらも隠すようにその顔に笑顔を張りつけて、早々にAはカナエに別れを告げた。
夜の風が冷たい。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーAさん、」
背を向けたはずのA。
玉砂利を踏みつけた音が止んだ。
あれだけ踏みとどまるまいと決めていたというのに決意はカナエのその声に呼び止められたその瞬間に崩れ去る。
『……っ』
強く、引き寄せるようにカナエを掻き抱いた。
その温もりを、己の速度を増した鼓動を伝えるように。
目の前にぶら下げられた運命を、ただ黙って見ていることしか出来ない己の無力さを詫びるように。
妹のことは、俺が見届けると約束を交わすように。
頬を染めた彼女が、ゆっくりとAの背に手を回した。
そしてこの夜が、胡蝶カナエが息を引き取る前夜である。
*☼*―――――*☼*―――――*☼*―――――*☼*―――――
「……!」
炭治郎との話を終えたのだろう。
目の前に現れたしのぶはAが縁側にいるのを驚いた顔で見つめていた。冷たい風が2人の頬を撫でる。
「…盗み聞きとは感心しませんよ、閼伽さん」
『…………』
Aは口を開かない。
ただ、その静かな瞳をしのぶに向けるのみだ。
その腰を持ち上げるとその足を進めてしのぶへと近寄るA。
そしてあの時とは違い、しゃがんで目線を合わせるとその右手をしのぶの頭の後ろへと回して、
「……っ」
ゆっくりと自らの肩口に埋めた。
Aには見えていた。
しのぶは今、動揺と哀しみの色に挟まれている。会って間もない少年に心の内を覗かれ、その彼に長年の願いを託して……。
思わず目を背けてしまいたくなるほどに生々しく、その色はしのぶの元々纏う淡い紫を覆い尽くしていた。
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隆弘 - 誕生日一緒だァァァァァ⁉︎今日から読み始めるので楽しみって感じです‼︎ (2022年7月25日 0時) (レス) @page1 id: 4c1fa166fb (このIDを非表示/違反報告)
タロ。(プロフ) - 拙い説明で申し訳ありません……!ですが、ありがとうございます! (2020年1月21日 18時) (レス) id: a185b79d93 (このIDを非表示/違反報告)
タロ。(プロフ) - ルルさん» ご指摘ありがとうございます!紛らわしい書き方をして申し訳ございません…あくまで、炭治郎には火の呼吸という認識をワザとさせています。その後の閼伽が「日…ではない」と語っていますので、ここの間違いは意図的となります (2020年1月21日 18時) (レス) id: a185b79d93 (このIDを非表示/違反報告)
ルル - 珊しちでした (2020年1月21日 17時) (レス) id: 2200c5b181 (このIDを非表示/違反報告)
ルル - 珊じゅう話の炭次郎が言ってる呼吸が日の呼吸ではなく火の呼吸になってます (2020年1月21日 17時) (レス) id: 2200c5b181 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:タロ。 | 作成日時:2019年9月25日 21時