橄欖の側にて咲く青薔薇の密かな望み。そのヨン

ヒャクナナジュウ話 ページ25

誰かに名前を呼ばれて、ふわりと意識が浮上する。

鼻腔を掠めるのはいつもの香りではなく、石鹸の香りだった。

ゆっくりと目を開けると、見えたのはいつもの拠点の寝室ではなく見たことのない部屋。

緩慢な動きで周囲を見渡せば、上品な赤と木の暖かさを基調とした調度品が目につく。

「……ここ、は」
ーーここは遠坂邸だマスター。

そう言って霊体化を解いたのは所々に傷を負っているアサシンだった。

何故彼は怪我をしているのだろう。

回らない頭で考えて、そして思い出し、飛び起きた。

「アサシン！ タイガは!? シロウ君は!?」
「落ち着けってマスター。二人共無事だ、生きてる。あのお嬢さんが治療してくれたから大丈夫だ。ついでにマスターの手の傷も治してくれた」

無事の言葉にほっと息を吐き、再度背中からベッドへと沈む。

良かった、無事で。

安堵の笑みを浮かべる私と反し、アサシンは厳しい目をどうしてか向けてくる。

「？ アサシン？」
「……なんで、あの時令呪で坊主とお姉ちゃんだけを指定して、自分を含めなかった」

閉口する。

どうしてと問われても。

「わかりません」
「わからない？」

頷く。

「ただ、あの時はそうするべきだと思っただけなのです」
「……あんたは生きて帰ることを目標にしていたはずだ。生きて家族の元に戻るとあんたは俺に言った。目的を優先させるのなら、あんたは二人を見捨てるという決断をすべきだった」
「それは嫌です」

どうしてか数秒程、謎の沈黙がアサシンと私の間に訪れた。

「いや、あのなマスター。感情論とかでどうにかなる問題じゃないんだって」
「嫌なものは嫌です。私は確かにイギリスの地へと無事に帰りたいと思ってます。でも大切な友達を見捨てることは私にはできません」

それに。

「現に今、私は生きています」
「……」
「だから、ちゃんとイギリスに戻れます」

そう締め括れば、深々と溜め息を吐かれてしまった。

何かおかしなことを言ってしまっただろうか。

「それは結果論であって……、あー、もう、いいや」
「アサシン？」
「俺が確りとマスターを守ればいいだけだって思っただけ」

軽く頭を撫でてくるアサシンに、疑問を抱きつつも気にしないことに。

「まぁ、もし次そんなことするようなら手足の骨を折ってでも止めるから、覚悟しとけよ？」
「え」

満面の笑みを浮かべてそう締めくくったアサシンに、目を瞬いて。

それから引きつった顔で頷いた。

流石に手足の骨を折られたくはない。

ヒャクナナジュウイチ話→←ヒャクロクジュウキュウ話　第三者視点

ラッキーアイテム

鳳凰の羽根

ラッキーカラー

あずきいろ

ラッキー方角

西 - この方角に福があるはずです

ラッキーサーヴァントクラス

シールダー

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す