一話 ページ1
最期の記憶は、遠くに揺らめく水面と、吐き出した呼吸の気泡、それから、冷たくしゃがれた亡者の手。
「…朝」
なんて事ない、いつも通りの日。
いつも通りの寝起き。
いつも通りの朝の音。
少しぼんやりする思考の中で、反芻する夢の記憶に蓋をする。した筈だった。いつも通りに。
「あ、れ？」
…感じたのは、大きな違和感。
自分自身の頬に手を当て、その手を自分の目の前にかざし、それから鏡台の前に立って、自分の姿を見る。
紛れもなく違和。
何故生きている？僕は…わた、しは。
「死んだ筈、なのに」
茫然とする鏡の中の僕。Ryan Alfred Burton(ライアン・アルフレッド・バートン)。幼い頃の私と似た顔立ちの男の子。私は本当に死んだのか？ああ、死んだ。確かに死んだ。しっかりと覚えている。私が死んだ事を。私が闇の帝王に一矢報いるべく、この身を糧にして。私が17の時だ。今迄掲げてきた純血主義の間違いを知り、闇の帝王の死を望み、そうして死んだ。
僕は、幼い頃から何故か水が怖かった。差し出されたゴブレットに入った水を飲むのが怖かった。身体が浸かる程の量の水が怖かった。両親も兄弟も理由が分からず首を傾げるばかりだった。当然だ。僕は水にトラウマを背負うような経験をしていない。不思議だった。何故水を口にした途端に喉が焼けつく様に痛むのか。何故何者かに、恐ろしく冷たい何かに引っ張り込まれてしまうと感じるのか。
そうか。そうだ。そういう事だったのだ。
どうして今迄思い出せなかったのだろう！
やけにスッキリとしている頭は、二人分の記憶をきちんと保持していた。ずっと、そう、きっとずっと覚えていた。忘れていただけだったのだ。それがどうして突然思い出す事になったのか。分かってる。昨夜の出来事のせいだ。
だって、知ってしまったのだ。僕が先祖返りではないかと言われる程にブラックの血を受け継いだ事を。
だって、知っているのだ。強くて繊細だった母上を、寡黙だが愛情深かった父上を、誰より魔力はブラック家らしかった兄上を、そして、愛する家族たちの叶いもしない幻想を夢見ていた愚かな私を。
鏡の前でうっそりと微笑む。その口角も、目の細め方も、全てあの頃の私と同じ。腹の探り合いばかりで退屈な社交界の代名詞。
「レギュラス、レギュラス・アークタルス・ブラック。私の名前」
僕と同じ、R.A.B。
僕と同じ、小さな王の名を持つ獅子。
きっと必然的に、僕は私の記憶を得たのだ。
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巫咫刄(プロフ) - うわー続きが気になるやつやん。これからが面白くなるやつやん｡お早い更新お待ちしております！ (2023年1月15日 15時) (
レス) @page13 id: f01b4a7cd8 (このIDを非表示/違反報告)
漆黒の薔薇(プロフ) - 最っ高！！続きを楽しみに待ってます！！！ (2022年2月3日 13時) (レス) @page11 id: 462d698004 (このIDを非表示/違反報告)
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