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結局、円堂が守るゴールへはシュートを三発打った。最後の威力が上がったものだけ受け止め損ねた円堂だったが、祖父の技を更にパワーアップさせるのだと意気込んで鉄塔広場へ向かう。
残された部員たちは練習の後片付けをしつつ喋っていた。
「普通に絡んでると忘れるけど、お前って天使様なんだよなぁ」
磨いたボールを籠へ放り込んだ半田が、先程のシュートを思い出してふと口に出す。Aは首を傾けつつ半田に次のボールを渡した。
「最近すごく天使天使言われるんだけど、何かあるの?」
「最近っていうか、一年生の時から言われてたぜ」
「ふーん」
中学生が考えることはよく分からないと零すAに、お前も中学生だろと突っ込む。
彼女は見た目は若々しくて可愛らしいくせに、思考が時折大人びすぎている。同い年のはずなのに、年上……二十代ほどの女性と話している気分になるのだ。
外見が年相応だから誤魔化せているが、これで大人びた容姿をしていたら、高校生や大学生だと言っても大抵の人間は騙すことができるだろう。後はどこか円堂にも似た無茶をするところやサッカーバカなところがなければ完璧だ。
円堂を中心としたサッカー部員を暖かく微笑んで見守っていると思ったら、次の瞬間予想もつかない無茶なことを仕出かしてはお茶目に笑っていたりする。気遣い屋でお人好しかと思ったら、他人のことには割と興味が無い。
性格と行動と精神年齢……すべてにおいて両極端でちぐはぐで、天使か普通の人間か分かったものではない(種族的にヒトであることに変わりはないのだが)。
もしもサッカー部に居なければ、彼女の持つ矛盾に気づくことはなかっただろう。普段のAとサッカー愛に満ちたAと円堂を甘やかすAとを同時に見られる立場だから気づけたと言っても過言ではない。
彼女が無茶をしようとも、無理をしているわけではないことは分かっている。人助けも気配りも、マイペースにやりたいことだけをしているに過ぎないのだ、この天使様は。だからこそ危なっかしい。
「半田、いつまでそのボール磨いてるの」
「あー悪い」
変なことを考えてしまった。いくら外見性格詐欺の似非天使様であろうとも、彼女とは一年ほどの付き合いで、仲間で、ずっとサッカー部を支えてくれていた存在だから、気にしなくていいことまで気になってしまう。
半田は誤魔化すように笑い、磨きすぎて輝いて見えるボールを籠に放り込んだ。
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作者名:おひめ | 作成日時:2022年7月14日 17時