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ベンチに座って練習を眺めていると、覚えのある気配と視線を感じたのでそちらを振り向く。……豪炎寺だ。
｢秋、ちょっと行ってくるね｣
｢え？ あ、豪炎寺くん…｣
秋がAが歩いていく方向を見ると、河川敷の上に豪炎寺がいた。そちらの方向に一切に目を向けていなかったのに、よくわかるものだと思う。幼なじみに対しては背中に目があるような反応を示すものなのだろうか。
交通事故で幼い頃に亡くなってしまったサッカーが大好きな幼なじみの顔を一瞬だけ思い浮かべたが、秋は首を振ってその笑顔の残像を払った。
◇
｢修也、先に帰ったんじゃなかったの？｣
｢夕香のところに寄ってきたんだ｣
｢そっか｣
豪炎寺とAは、河川敷の上からサッカー部の練習を眺める。前に一緒に見たときは円堂と稲妻KFCの子どもたちしかいなかったけれど、今円堂は仲間たちに囲まれている…何とも感慨深いものがあった。
｢あいつら……もう練習しているのか｣
｢そうだよー｣
｢あんな試合の後なのに、皆しっかりと前を向いている。……いいチームになりそうだな｣
豪炎寺が思ったより彼らに好感を抱いていることにAは驚く。これはもしかしたら、もしかするかもしれない。
｢……俺は何を言ってるんだ。あいつらはあいつらで、チームを作っていく。俺には関係ない｣
｢修也｣
｢関係ないのに、どうしてこんなに……｣
彼の心はまだサッカーと夕香の板挟みの場所にいた。しかし、心做しか彼の頑なな意思はいつもより揺れている気がする。恐らく、雷門イレブンのサッカーを見ているからだろう。
豪炎寺さえ加わればチームが完成しそうだとAは考えた。なぜなら、ポジション然りチーム内での役割然り、需要と供給の何もかもが合致しているのだ、雷門と豪炎寺は。本当に、はじめから豪炎寺が雷門にいることが宿命づけられていたかのように。
｢A｣
｢うん？｣
｢……いや、なんでもないよ。早く帰ってこい、フクさんが夕飯を作って待ってるだろうから｣
｢わかった〜｣
｢帰り道には気をつけろ｣
｢うん｣
｢変な人にはついて行かないように｣
｢はいはい｣
過保護すぎる幼なじみはAにつらつらと帰り道の注意事項を口にし、彼女が全てに頷いたのを確認すると満足気に微笑んで去っていった。
どんな思いでここに来たのだろう、彼は。まだサッカーをするのに否に近しい迷いはあるが、足が久々にボールを蹴ったこの場所に動いたのだろうか。
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作者名：おひめ | 作成日時：2022年7月14日 17時
