笑えない ページ29
A side
「それと、今の高野さん一人だとなんか色々やらかしそうなので誰か一緒に帰らせてください！
あ、でも私委員会あるので無理です！
なので他の人お願いします！」
一息でそう言い切り、直後にむせた。
砂野さんが手を上げようとしたが、琴葉が言葉を続けた。
「あ、城田君あたりがいいかもです！
池田君だと高野さん多分飛び降ります！」
…笑えない冗談か？
いや、意外と本気で言った言葉っぽいな。
「…一人で帰れる」
「高野は早退。あと一人、適当な奴一緒に帰らせておいてくれ！」
なんと適当な担任だろうか。
私はこの担任をしているクラスになったことを後悔するよ。
「……瀬竜」
ポツリと呟いた。
その言葉は誰に届くことなく消え去るだろう。
…いや、二人だけに届いた。
「…瀬竜…？」
「っ……」
琴葉と真昼だ。
「…琴葉」
「え、あ、なんでございましょうか」
「夏休み明けのテスト、来週だよな」
「ん、そうだね…？
まだテスト範囲半分くらい残ってる」
私の質問の意図がわからない琴葉は、首を傾げながら答える。
「それまで一回も学校来ない。
そんで、全教科満点で学年一位取る。
特に何があるわけでもねえけどそうする」
「へえ、全教科満点か。
……全教科満点？え、バカ？」
「そんで全教科満点とったら瀬竜に会うわ」
「…あの子に？」
「それ以外誰がいるんだよ」
カバンをとって廊下に出ようとした。
すると、真昼が私の手を掴み、言葉をかけた。
「…帰るぞ」
「は？いや、ちょ、一人で帰れるって」
真昼の手には自分のカバンが握られていた。
真昼に引っ張られて、困惑しながらも言葉で抵抗する。
強い力で握られている手と真昼を交互に見て、やがて、抵抗するのは諦めた。
「…あの子は、もう、いないよ…」
街中に出た。少し、歩く速さが遅くなった。
あ、追いつけるかな、と思ったので少し走って真昼の横に並ぶ。
一方的に繋がれている繋ぎ方から俗に言う恋人繋ぎに変える。
「…真昼」
いつもなら手の繋ぎ方変えた時にこっち向くんだが…。
名前呼んでもなんというか…上の空みたいな感じだ。
まあ、普通の人なら恋人が殺人犯とか…映画かよってなるよな。
いや、その前に怖すぎるか。
手をそっと離して、真昼から離れる。
考え込んでいるようで、手を離したことには気づいていないようだ。
そっと、街中を走った。
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作者名：リリムゥ | 作成日時：2018年5月13日 17時
