９８ 伝える ページ7
『ピンク君！！……げほっ、げほっ、ま、待ってっ、』
「…A」
ちょうど車に乗り込む所だったピンク君は、病人だというのに走って来た私を見て、驚嘆した様に動きを止めた。
引き渡しをしていた看護師さん、そしてピンク君を連れて行こうとしていた黒いスーツの男の人も私を見る。
「…！まさか、この子は……」
「Aちゃん！？駄目よ、走っちゃ！早く中へ……」
『げほっ、げほっ……お願いします！時間を、く、くだ、さい…！』
苦しい息を立てながら、頭を下げる。
とにかくがむしゃらで、頭の中も心の内もただそれだけだった。
しかし、そんな時間はない。
看護師さんは、優しい口調で私を宥めようとする。
「Aちゃん、ごめんなさい。今はね、とても急いでいるの。だからそれは……」
「……否、良いでしょう。」
「出来ない」という言葉を遮ったのは、黒スーツの男の人だった。
看護師さんは良いんですか、と男の人の顔色を伺う。
男の人は、私の顔を一瞥した。
「この子は、源Aさんでしょう。″例″の件については、こちらにとっても……ですから。最後の別れ位させてあげてください。」
……なんで、私の名前を知っていたんだろう。
でも今は、それより。
難しい話をする二人を横目に、私はピンク君に駆け寄る。
ふらふらと歩く私を、ピンク君はさりげなく支えてくれた。
『ピンク君、げほっ、げほっ、あの、』
「まさか、本当に来るなんて……」
『え？』
私は、いつもと違うピンク君の声色に顔を上げる。
今までほとんど表情を変えなかったピンク君が、僅かながら微笑を浮かべていた。
『笑って、る……の？』
「うん」
『そっか、よ、良かった…』
やっと、笑ってくれた……。
ほぅっと息をつく。
が、ゆっくりしてはいられない。
時は刻々と迫っているのだ。
『ねえ、あの、げほっ……名前、きいても、良いかな』
ずっと聞きたかったこと。
ピンク君は静かに頷き、切り出した。
「僕の名前は……。悠馬だよ。野坂、悠馬。」
野坂、悠馬……。
私は頭の中でその名前を繰り返す。
『悠馬……そっか、悠馬かあ。ねえ、悠馬』
「なに？」
『ありがとう、今まで。悠馬といれて、凄くたのしかったの。』
これが、私の精一杯の気持ち。
じわじわと目頭が熱くなっていくのが分かった。
涙がぽろぽろと流れ始めたとき、悠馬は私の手を握った。
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通りすがりのジンギスカン(プロフ) - ありがとうございます!更新楽しみにしています! (2023年1月3日 0時) (
レス) id: 8ec3ac3ee0 (このIDを非表示/違反報告)
花鈴萌(プロフ) - 通りすがりのジンギスカンさん» はじめまして！コメントありがとうございます。楽しく読んで下さっていると聞き、とても嬉しいです。パスワード送らせていただきますね！これからもよろしくお願い致します。 (2023年1月2日 22時) (レス) id: 40828a89fc (このIDを非表示/違反報告)
通りすがりのジンギスカン(プロフ) - はじめまして!いつも楽しく読んでます!続きが気になるので、良ければパスワードを教えて頂けませんか? (2023年1月2日 0時) (レス) id: 8ec3ac3ee0 (このIDを非表示/違反報告)
加茂&夏油の嫁(プロフ) - 花鈴萌さん» こちらこそです！更新楽しみにしています！ (2022年12月31日 5時) (レス) id: ef07d69be6 (このIDを非表示/違反報告)
花鈴萌(プロフ) - 加茂&夏油の嫁さん» はじめまして、ご指摘ありがとうございます。すみません単なるミスです。なぜ今まで気づかなかったのか……！ただ今修正しました。面白いと言って頂けて本当に嬉しいです。これからもよろしくお願い致します！ (2022年12月31日 5時) (レス) @page20 id: 40828a89fc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：花鈴萌 | 作成日時：2020年9月19日 10時
