【銀魂】花時の青い夢【合同企画】 (ページ13)

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「――“全部覚えてる”って言っただろーが」

『俺は覚えてっけど？ぜーんぶな』
蘇るのはついさっき聞いたばかりのそんな音。意地悪く、私をからかうようにつり上がったそいつの口元。優しい、瞳。

でも、今度はからかいの色など微塵も含んでいないそれに、私はただただ動揺することしかできなかった。

「……ゼンブ、ってなに」

「全部は全部だろ」

お前の好みもテメーの気持ちも何もかも、と。「なあに言ってんだか」どこか熱を孕んでいるようでもあるそいつの視線から逃げるように茶化してみるも、効果はみられない。

「流石に日本酒呑みになってやがったのは想定外だったけどな。味覚おっさん仕様かよ」

「おっさん言うな。……それに、私は覚えてないって、言った」

「そりゃ残念」

喜劇よろしく大げさに肩を上下させた銀時。どうにも私は現在、何らかの岐路に立たされているらしい――と、ここでようやく、いまこの身に降りかかっている状況を少し理解する。
目の前にいるこの男を、思い出の中に置き去るか、否か。

けれど、「でもそんなら」そいつは私に考える暇を与える気などないようで。

「――思い出させるまで、ってな」

力強い男の腕が、後頭部に回った。

いつの間に私は、綱渡りの綱を踏み外してしまったんだろう。酒臭い男など嫌いだったはずなのに、今こいつに嫌悪感を感じないのはどうしてだろう。どうして、抵抗する気にならないのか。

そんなことを考えているうちに唇へ挟まれた距離が縮まっていく。――あぁ、なんてこった。

「昔よか巧くなっただろ」

もう青くない私たちに、また春が訪れようとしているらしい。

「……一回だけじゃわかんない」

――今度のそれは、何色だろう。

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