26 ページ27
闇に月が浮かんでいる。
薄絹を広げたような空に朧月がぼうっと光って、ライラック色の月明かりを砂地に落としている。
風はさわさわと耳元を通り過ぎて、背後の広い空間を渡っていく。
「月見とは風流やなぁ。ボクも混ぜてや」
突然横から声をかけられ、沙夜は素早く窓から飛び退いた。
銀髪に狐目の青年が妙な笑みを湛え、こちらを見ている。
「あなたは確か……」
「市丸ギンやで。よろしゅう」
記憶が合致した。 藍染の傍らにいた、直属の部下らしき男だ。
「悩み事でもあるん? ボクで良ければ話聞くで」
悩みと言えばこうして拉致されたことなのだが、言えるわけがない。
何より、話し方のせいだろうか。ギンを見ていると平子が頭をよぎる。
「さては、ボクを誰かさんと重ねて見とるな? 例えば……平子隊長とか」
図星をさされてギクリとした。
ギンの目が薄く開かれる。
僅かにのぞく瞳に吸い込まれそうになる。
ギンはゆっくり歩いて、固まっている沙夜の耳元に口を近づける。
「あの人は助けに来んで」
その一言に、後頭部を金づちで思い切り殴られたような衝撃を受けた。
「だって現世を守らなアカンもんなぁ。それがなくたって、平子隊長は死神、沙夜ちゃんは虚で破面やろ。住む世界が違うやん」
「平子隊長らのとこ帰りたいてなるのはな、淡水魚が海出て溺れとるようなもんなんや」
「違う……私は……」
息苦しさを感じ、耐えられずに沙夜はしゃがみ込んでしまう。
「何をしている」
いつの間にか、ギンの後ろにウルキオラが立っていた。
自分の宮に沙夜の姿がないので迎えに来たのだ。
「あらら、見つかってしもた。ほなボクはこの辺でおいとまさせてもらうわ」
「……行くぞ」
ウルキオラは沙夜を立ち上がらせ、宮へと連れ帰った。
自室に戻るなりベッドに倒れ込んだ沙夜を、ウルキオラはじっと見ていた。
夢の中で、髪の長い平子が泣いている。金糸を床に広げて肩を震わせている。
かと思えば、いきなり髪が短くなる。
いずれにしても、その肩に触れることさえできない。沙夜はいつも無力感に苛まれる。
ウルキオラはベッドに腰掛け、沙夜の頬を伝う滴を指で拭った。
35人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
kocha28012(プロフ) - めっちゃ面白かったです!続編待ってます! (12月30日 1時) (レス) @page44 id: a73870853f (このIDを非表示/違反報告)
ねーぶる。(プロフ) - 高評価ありがとうございます! 恐れ入りますが、この小説は名前固定(オリキャラ)とさせていただいてます。それでもよろしければ、引き続きお楽しみください♪ (7月25日 8時) (レス) id: 6d62d65eb7 (このIDを非表示/違反報告)
なでこここ - めっちゃ面白いです!!名前変換だけできてない箇所があるので直してくださると嬉しいです🥺💕 (7月25日 6時) (レス) @page3 id: bdaf2286ee (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ねーぶる。 | 作成日時:2023年7月3日 13時