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アジトに戻ると、沙夜の霊圧だけが忽然と消えていた。
部屋を覗いてみてもいない。
胸の動悸が激しさを増す。背中の毛穴が開いて、気持ちの悪い汗が吹き出してくる。
地上の生温い風や、木々のざわめきまでもが意志を持っているように感じた。
町中を駆けずり回って、沙夜の痕跡をたどる。
やがて、空座町で一番高い山に霊圧の名残を探し当てた。
山頂まで歩けば1時間強かかるところだが、瞬歩が使える平子には関係のない話である。
そうして、あれよあれよと山頂へ着いた。
展望台では、沙夜が空座町の町並みをぼんやりと眺めていた。
「……捜したで、沙夜ちゃん」
「……平子くん」
「黙って出て行きなや……心臓に悪いわ」
しかし、沙夜はその場から動こうとしない。
夜な夜な脱走するくらいだから、それなりの事情があるのだろう。そう考えた平子は、話を聞く態勢に入った。
「平子くん、私ってなんなんだろう」
それから沙夜は、自らの身に起きていることを洗いざらい話した。
頭の中が徐々に知らない記憶で満ちていくこと、時々身体が勝手に動くこと、心臓がないこと、自分がなくなっていっていること。
沙夜は、昼間ひよ里に手を上げてしまったことを気にしていた。
無意識とはいえ、あの行動で自分が化け物ということを自覚してしまったのである。
「これ以上誰かを傷付ける前に、さよならしようと思って」
「……」
「え……泣いてるの?」
沙夜に指摘されて、ようやく平子は自分が泣いていることに気が付いた。
「……どんなになっても、沙夜は沙夜や。俺はそんなお前やから一緒におりたいんや。もしお前がおかしゅうなったら、全力で止めたる。しゃーから……さよならなんて、悲しいこと言わんといてくれ」
地面に涙が落ち、いくつもの染みを作っていく。
沙夜は一呼吸置いてから頷き、平子の涙を拭う。
「ありがとう……やっぱり、平子くんがいてくれて良かった」
「真子」
「へ?」
「真子って呼んでや。今さら他人行儀はおかしいやろ」
「うん ……真子」
「おう、沙夜」
2人は顔を寄せ合って笑った。
東の空は、少しずつ薄明に照らされ始めていた。
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kocha28012(プロフ) - めっちゃ面白かったです!続編待ってます! (12月30日 1時) (レス) @page44 id: a73870853f (このIDを非表示/違反報告)
ねーぶる。(プロフ) - 高評価ありがとうございます! 恐れ入りますが、この小説は名前固定(オリキャラ)とさせていただいてます。それでもよろしければ、引き続きお楽しみください♪ (7月25日 8時) (レス) id: 6d62d65eb7 (このIDを非表示/違反報告)
なでこここ - めっちゃ面白いです!!名前変換だけできてない箇所があるので直してくださると嬉しいです🥺💕 (7月25日 6時) (レス) @page3 id: bdaf2286ee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ねーぶる。 | 作成日時:2023年7月3日 13時