【殺戮の天使】呪われた体と私を縛る約束 2

B2 過去8 ザックside ページ8

(老人)
「今日は寒いな」


(ザック)
「… 」

今日はさきにAは寝てしまっていた


なぜだろう、老人が何かを話しかけてくる


たびにぞわぞわして仕方がない


気持ち悪い


このぞわぞわを、今すぐに吐き出したい


そう思ったとき俺はまた


誰かを殺したいという衝動に駆られた


そうだ…あの老人を殺せばいい


それがいちばん手っ取り早いに決まってる


だが刃物を持って近づいても老人は


何も知らないという顔をした


目が見えない上にボケているのだから


当然だった


途端にこんな不幸で、惨めで無反応な


老人を殺すことは酷く無意味な気がした


殺したところでこのぞわぞわは消えないだろう


それに最近は老人の問いにAが


答えるようになっていた


だから俺は外に出た


殺したい 殺したい 殺したい


心にはその言葉だけが渦巻く


殺せるなら誰でもよかった


家を出て少し歩いた頃、俺は小さな川に


架かる橋の上で躊躇なく人を殺した


男だということは覚えているが


どんな奴だったかはもう思い出せない


手に持っている携帯電話で楽しそうに


笑っていたから殺した


殺した人間は包丁を手に持った俺の姿を


見るだけで身体を硬直させながら怯えていた


その姿は確かに、あのぞわぞわした感覚を


掻き消すほどの高揚感を、俺に与えた


俺はあの夜の高揚感の正体を


求めていたのかもしれない


でも、なぜだろう…


同時に老人のことが思い浮かんだ


老人は俺のこの姿を知ってどう思うだろうか


狼狽えるだろうか…


だったら殺してやろう


そうすれば、この高揚感の正体がはっきりする


俺は知らない人間の返り血を浴びたままで


老人とAの待つ家に帰った


(老人)
「どうしたんだお嬢さんを置いて珍しい」


目がみえないながらも老人はさすがに


俺の異変に気がついたようだった


きっと生々しい血の臭いがしていたからだろう


白味がかった老人の目をじっと見つめ


嘘偽りなく、俺はいった


(ザック)
「Aは寝かしといていい

人を殺した 殺したかったから

殺してきた」


それからさらに、老人と会う前のあの


雨の夜俺がやったこと


施設の夫婦を殺したことを


そのあと声をかけてきた女を殺したことを


事細かにぶちまけてやった


俺を可哀想な子供だと思ってここに置いている


老人は絶対に狼狽えるはずだと思った

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