【男主】熟れた赤い果実の様に

　　続いていく悪夢 ページ5

Aはこの館で最も豪奢な扉を叩く。



「失礼致します」



「入ってくれ」



扉の向こうから初老の男性の声が返ってくる。


ああ、こいつは確か20日に1度ほど自分のことを買っている奴か


Aは扉越しのくぐもった声だけで相手を判別できるようになっていた。

彼の耳が特別いいこともあるだろうが、何年も何年もやってきていることからくる慣れも大きいだろう。



この娼館は勿論法的に認められている存在ではない。

この辺りの地域でそのような施設が認められていない訳ではないのだが、合法的な施設では至って普通のお遊びしかできないのだ。

普通という枠組みに収まりきれなかった変態達の憩いの場が、Aの連れてこられた組織なのである。


つまり暴力、殺人、エトセトラ……

そういったおぞましい行為ですら金さえ払えば楽しめてしまう場所。



今でさえ稼ぎ頭として(他の従業員達に比べて遥かに)まともな扱いを受けているが、連れてこられた当初はその限りではなかった。



この男はAが入ってきた時から通い続けている古株だ。

今でも行為中に暴力をふるってくることがあるが、程度によっては金さえ払えばお咎め無しだ。



そんな訳でAはあまりこの男が好きではなかった。




「いやあ久しぶりだね、半年も君に会えなくて寂しかったよ」




Aが扉を閉めると、男はぬるりとした動作で後ろから抱きついてきた。




「はぁ、そうですか」




男は仕事でこの六ヶ月来ていなかった。

Aは誰かに殺されたと思っていたので少し残念に思っていた。





「ははは、君のそのカワイイ態度にも少しだけ懐かしさを感じてしまうな」




男は太い指でAの顎を捕まえると、唇を重ねてきた。


だるいくらいに甘ったるい煙草の匂いが鼻腔を乱暴に撫でる。







今日もAの仕事が始まった。

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