好き〜８〜 ページ8
「え、明里ちゃんから？なんてきてんの？」
横山先輩が興味津々といったようにスマホを覗き込む。
櫻井先輩は「見んな」とポケットに隠してしまった。
だけどふと見えたのは、
「早く会いたい」
という文字だった。
･･･････そう、だよね。いつもなら明里さんと帰ってるもんね。
明里さんも櫻井先輩も、お互いに早く会いたいだろうし･･･。
「どうせあれやろ？いつものメールやろ？」
「はぁ？･･･まぁ、そうだけど。つーか別にお前には関係ねーだろ」
「照れんなや〜」
「うっぜ！」
ニヤニヤする横山先輩と眉を顰める櫻井先輩。
普段なら微笑ましい光景なのに、どうしてもそんな気分にはならなかった。
むしろずっと苦しくて。悲しくて。
なのに馬鹿な私は、自分で自分を傷付けに行くんだ。
『･･･それなら、今日は早く帰ったほうがいいんじゃないですか？明里さんのこと気になるでしょう？』
無理矢理笑顔を作って、思ってもない言葉吐いて。
ああ、こんな恋、不毛だって分かってるのにな。
「･･････帰らねぇよ。Aといたい」
『＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿え』
今、なんて。
いつも櫻井先輩は「Aちゃん」って呼ぶのに。
乱暴な口調は友達にだけで、私には優しい口調で話すのに。
今、この人は。
私を「A」と呼び、更には砕けた口調で話した？
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿夢、なの？
「･･･それに、完璧にラーメンの腹になったしな！」
『･････あ、え？』
「そやそや！今日は翔くんに奢ってもらうつもりで来たんやから帰られたら困るわ。な？ヨコ」
「せやで？今、俺らお金あんまないからよろしくな」
「お前らなぁ！」
『･･････』
「････？Aちゃん、どうかした？」
『あ、い、いえ･･･』
びっくり、した。
櫻井先輩が櫻井先輩じゃないように見えて、少し怖かった。
私が知ってる先輩は、優しくて、王子様のような笑みを浮かべてて、後輩をたくさん可愛がる人。
そんな理想を超えた、完璧な先輩。先輩も私達後輩にはそれを意識して見せてる。
なのに、さっきの先輩はまるで＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿。
『(獲物を狙う獣のような目だった、なんて)』
そんなはずないのにね。
期待するな、馬鹿。
「明里にはちゃんと言っておくから、気を使わなくて大丈夫だよ」
『わ、分かりました』
そう、優しい笑みで頭を撫でてくれるのがいつもの櫻井先輩。
さっきのはきっと見間違いだ。
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作者名：みかづち
| 作成日時：2020年9月2日 15時
