好き〜２２〜 ページ22
少しガタがきている扉を開けると、絵具や油の匂いが鼻にツンときた。
中は色々なキャンバスで埋められていた。
真っ白なのもあれば、未完成の絵や既に完成している絵もある。
そして、そんな光景の真ん中にいるのは＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
『大野先生･･･』
担任の、大野先生だ。
「･･･････」
大野先生はこちらに気付く様子はなく、淡々と目の前のキャンバスに色をつけている。
真後ろに立っても気付かないなんて･･･一体どれだけ集中しているんだろう。
『････綺麗』
どんどん形作られていく絵も、それを手掛ける手も。
全部綺麗だ。
まるで神様のよう。
安易かもしれないけど、その手でこの独特な世界が作られていくと思うと、
この言葉が適切のように思える。
「＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿別に綺麗じゃないよ」
気付けば、大野先生が筆を置いてこっちをじっと見ていた。
･･･いつの間に。
『･･･最初から気付いてたんですか？』
「いんや？「綺麗」って呟いたところくらいから」
『それでも割と最初じゃないですか･･･』
････というか。
『綺麗じゃないって？』
「そのまんま。俺の作品、別にどれも綺麗じゃないよ」
『もう！大野先生、謙虚にならなくても、』
「Aちゃん」
私の言葉を遮り、斜め後ろにあったキャンバスを持ち上げた。
そこに描かれていた絵も他と同様すごく綺麗で。
････でも、少し荒々しさも感じた。
「これ、どう見える？」
『･･･綺麗、です。でも、』
「でも？」
『他のと違って、少し荒いように感じます･･･。あっ！これは悪口とかそういうのじゃなくて！』
「ふふ、分かってるよ」
大野先生は「よく見てるねぇ」ってふんわり笑った。
いつも私達が見ている笑顔だ。
「一週間前、ちょっとイライラすることがあってさ。その気持ちを絵にぶつけよう、って描いたのがこれなんだよ。だから結構荒っぽい」
『ああ、そういえば元気なかったような･･･』
あの時はクラスのみんな心配してたっけ。
「俺はね、綺麗な作品を描こうとしてるわけじゃないんだよ。自分が思ったままに筆を動かして、そうして色んな作品が出来上がってる。それがたまたまAちゃんや他の人の目には綺麗に映った。ただそれだけの話」
『自分が思ったままに････』
「そ。この作品たちは、いわば俺の“感情そのもの”だから」
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作者名：みかづち
| 作成日時：2020年9月2日 15時
