９、『ご主人様』 ページ9
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夢ノ咲学院の正門前。
挙動不審のように周囲を確認して向かう。
｢……はぁ、とりあえずいないか｣
ホッと息をして、屈んでいた体を起こす。
決して怪しいものではなく、警戒してるだけ。
誰にって、もちろんあの変態クソワカメだ。
変なことしやがったせいで、昨日はろくに寝られなかった。
｢ふぁ……、クソねみぃ｣
ブツブツ言いながら 、石を足で蹴飛ばす。
ポケットに手を突っ込んで、気だるそうに歩く。
流石にみんなの前では何もしてこないだろうけど
あいつのことだ、油断はしていけない。
そんでもって昨日みたいなことは金輪際ゴメンだ。
思い出しただけでも腹が立つ。
｢あのワカメ……、来たらソッコーでぶん殴ってやる｣
｢――――――誰を殴るって？｣
噂をすれば、俺の背中に投げかけられる。
横目で確認すると、つい｢げっ｣と声が漏れる。
最悪だ、やっぱり瀬名だ。
｢そんなほっそい腕で何が出来るって言うの？｣
｢うっせーよ変態ワカメ、とにかく殴らせろ｣
｢最弱なあんたに構ってる暇はないんだけどぉ？｣
余裕たっぷりで俺と会話する瀬名は
殴りかかろうとする俺をスルーして、横切った。
腹立つ、マジで腹立つ。
バレるかバレないかの瀬戸際な会話をされることにさらに腹が立つ。
イライラしながら靴を変えようと、瀬名の隣に並ぶと
｢ねぇ、さっきから誰に向かって口聞いてんの｣
俺の肩に腕を回して、耳元で囁いてくる。
わざとらしい低い声は、昨日のことを蘇らすのに充分だった。
火照てくる顔を誤魔化すように、俯き加減で言う。
｢お前……っ！ここ学校……！｣
｢だから？｣
｢だ、だから、そのっ｣
｢俺が聞いてるのは、その生意気な口のことなんだけど？｣
そう言って、小さくリップ音をさせる。
こいつ、マシで見られてたらどうする気だよ……！
焦る俺を、クスクスと笑って見ている瀬名。
俺の神経を逆撫でる、昨日と同じ顔だ。
｢わ、分かったから離せっ、ひ、人くる｣
｢あんたがさっさと言えばいいだけの事でしょ〜？｣
言わなきゃこの状況続けるぞってことかよ。
学校を上手く利用しやがって、卑怯なやつだ。
けど逆らうこともできないし
従うしかないのもまた現実、鬼畜すぎる。
｢ほら、言ってみな？俺はあんたの『何』？｣
｢〜っ！｣
｢早く言わないと、人が来るんじゃない？｣
絶対楽しんでやがる。
でも場所が場所だけに、やるしかない。
意を決した俺は、小さな声で言った。
｢……『ご主人様』、です｣
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