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『戦争はしない、我が国は平和主義を掲げよう』


私の言葉に、幹部達は驚きを隠せないようだった。
大方予想していたのか知らないが、我が国の書記長であるぴくとは、呆れた顔をしながらも微笑んでいた。
反論の声も勿論挙がった。
他国への印象、貿易関連の影響、国民達の支持。
様々な方面から不安を寄せる声が聞こえた。
拳を握り、父によって植えつけられた、武力による解決を、私は否定した。


『ならば問おう、戦争で得られるものが幸福であるならば、それに伴う犠牲を誰が喜ぶんだ』

「幸福には犠牲がつきものです、それを私達は黙認し、国民の支持も受けてきたではありませんか」

『支持…?軍国主義である政府に口答えをすればそこに待つのは死だ、年端もいかない幼児でもわかることだろう、国民達が求めるものを、私達が圧し、否定して、その上戦争による幸福などと洗脳を繰り返したんだ、幸福に犠牲を伴わせるならば、この世に幸福なんてものは存在しない…!』


声を荒げれば、ぴくとに名前を呼ばれ、止められた。
分かっている、彼らがどれだけ父を支持して、自身の命さえも棒に振れるほど、あの人を信頼してきたことも。
それでも私は、この世界に、幸福を与えたい。
死への道を誇る振りをして、涙さえ流すことも許されない、そんな国を、私はどう愛せばいいのだ。


『私Aは、この国を、平和への道の先頭を行く、平和主義国家へと変えていきたい』


声を高々と発し、父とは、性別も、声も、思考も、何もかも違う私が、揺らぎのない心を持って国民の前に立っている。
驚き騒めく民衆を前に、作られた原稿など破り捨てて、私自身の言葉で全てを語った。


『人は、誰しもが幸福になる権利がある、私達が望むべきは、戦へと向かう家族を見送ることではなく、家族の帰りを、期待に満ちた胸で待つことだ、愛ある心を鬼にし、死への崖へ自ら背中を押すことも、一歩踏み出すことはない、私達は生を望むべきなのだ、幸福を、平和を望むべきなのだ!』


しばらく続いた静寂。
やはり、彼らも今更、平和など求めやしないのだろうか。
そう思い下唇を噛み俯くと、肩を叩かれた。
顔を上げれば、ぴくとが笑いながら、国民達を見ていた。
もう一度、彼らを見れば。
皆、拭うこともせずに、涙を流していた。


「人が流す涙は、こんなにも綺麗なんだ、悲痛な声に添えていいほど、汚れていないよ、そうでしょ、A」


私の頰に伝う涙も、そうであればいいと。
ただ、願った。

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作者名:そういろね | 作成日時:2019年8月9日 12時

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