29日目 ページ29
「それにしても、何であんな所に？村のことも知らないんなら、わざわざあそこに行く理由もなさそうだけど」
「お答えしかねます」
「ってことは訳ありか、まあ、殺人快楽者か、カニバリズムじゃなきゃいいよ、何処に行くのかは知らないけど、彼女が起きるまではここで休んで行きなよ」
「…はい」
喋りにくいから、と外された敬語。
長年敬語なんて使っていないからと言っていた。
こんな山奥の小屋に一人住んでいるのだから、確かに人と会うことも、親しくない人に会うこともあまりなさそうだ。
育った村は違うとは言ったが、村出身であるのだろう。
それにしても、やはり都会じみたその服装が気になる。
警戒のしすぎだろうが、人と交流の深い人とはあまり関わりすぎたくない。
いつ何処で情報が流出するかんからない。
「見たところ熱もなさそうだし、数日で目を覚ますだろうね」
「医療知識があるんですか」
「2年くらい医学を学んでてね、医療関係の仕事にはついてないけど、一人でこんな森奥で済むなら、自己治療できなきゃ駄目かと思って」
「何のお仕事を？」
「街のパン屋で働いてるよ、裏道にあるから、あまり有名ではないけれど」
「何でわざわざこんな所に？」
「街は賑やかで楽しいけど、長い時間いると、何だか疲れるんだよね、一人の方が好きだったりするし」
湯気の立つコーヒーを彼は啜った。
私の前にも、同じコーヒーが入ったカップが置かれているが、手をつける気にはならない。
目を覚まさないなんてことはないだろうが、数日も寝たきりの彼女を見なきゃいけないと思うと、少し胸が痛い。
どんな彼女でも美しいが、声が聞けないとなると、人生の楽しみを全て奪われた気分だった。
「どうする？君も寝る？」
「…いえ、大丈夫です」
「でも、疲れてるように見えるよ、無理して倒れるのはこちらとしてもいい気分じゃないし」
「貴方への警戒を解いたわけではないので」
「…そっか、じゃあ俺は少し休むから、何かあったらあっちの部屋に来て」
「……はい」
___警戒というよりも、違和感の方が大きい。
勿論、警戒はしているのだが。
何処と無く、彼女への興味が彼には感じられないのだ。
普通なら、目を奪われて、手を出してしまうだろうに。
耐性がついている？亡くした妻か彼女でもいる？
それとも、彼女のことを元から知っていた？
考えたって、結局は疲れ切った頭のせいで水の泡になって消えるのだから、目を瞑って、夢の世界へ行ってしまうのだ。
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ぱずる(プロフ) - 感動してボロボロ泣きましたwなんと言えばいいのか分かりませんが、とても素敵なお話でした。面白かったです!! (2021年4月30日 1時) (
レス) id: 6fda5d1ca9 (このIDを非表示/違反報告)
そういろね(プロフ) - みみみさん» コメントありがとうございます。返信が遅くなってしまい申し訳ありません！書き終えてから少し走り気味だったかもと反省していた部分があったので、好きという言葉をいただけて本当に嬉しいです！他の作品もよろしければ見てやってください。 (2020年3月6日 0時) (レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
そういろね(プロフ) - わたあめさん» コメントありがとうございます。返事が遅くなってしまい申し訳ありません！走りが気になってしまった部分もあり少し心残りのある作品だったので、そう言っていただけると嬉しいです！他の作品もよろしければ見てやってください。 (2020年3月6日 0時) (レス) id: 3979da825c (このIDを非表示/違反報告)
みみみ - やっと見つけました！ 本当に好きです！ (2020年2月16日 17時) (レス) id: a3e96579f7 (このIDを非表示/違反報告)
わたあめ - 初コメ失礼します…？感想っていうか…この話本当に好きです。他のどんな話よりも。本当に。作者さんに尊敬の花束を。 わたあめ(語彙力溶けた) (2019年7月31日 11時) (レス) id: 058dc021e0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：そういろね | 作成日時：2019年4月9日 19時
