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『鬱、お弁当』
「ん?あ、今日もありがとな」
『いちいちお礼言わんくてええよ、うちが好きでやってんねんから、あと、なんかもう癖みたいになってもうたし』
「おい待てや、やっぱりその弁当Aのやんけ」
「ふざけんなや、よこせこの野郎」
『ゾム』
「何やねん、俺は今忙し…」
『あーん』
「っ…あーん…」
弁当を狙ってきたゾムをおさめるように、いつもなら強請られてからしないあーんも、自らやった。
しかも、ゾムのお気に入りのだし巻き卵で。
美味しそうに食べているが、何処か不満気で、上手く躱されてしまったからなのか、いつもなら美味い美味いと褒める言葉も、今日は出てこないようだった。
「大先生いつか殺したんねん…」
『うち泣くで』
「…Aが死んだらすぐにあと追わせたるからな」
「妥協してくれた」
「食害も妥協してくれませんかね」
すかさずトンちがそう呟けば、目をギラつかせて食害が始まった。
Aはそれを一種の風景としか見ていないのか、真顔で見つめ続け、ご飯を食べ進めている。
俺はそんなAを景色に食べる。
もう恥じらいなんかないわ。
『…ん?どしたん、そんな見て、ソースついとる?』
「ついてへんよ、見とっただけ」
『…バカップルみたいなこと言わんといてや』
「朝のもだいぶバカップルやったで」
『え…もうあれせんとくわ』
「何で?嬉しかったで?」
首を傾げて聞けば、複雑そうな顔になり、返答はなく、また食害を見つめ出した。
無視されたんやけど、付き合って1日目に。
軽いショックを受けながらも、気にしないフリでご飯を食べ進める。
すると、ふい、Aが近くまで寄ってきた。
『…バカップルって、すぐ別れるんやろ?』
「続くバカップルもおるで?」
『……確率の問題やねん』
自分から近づいてきたのに、今朝のようにそっぽを向いてしまうのだから、可愛くて仕方ない。
バカップルみたいな言動をすると、すぐに別れると思ったのか、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
そんな姿も愛らしく、少し意地悪をしたくなった。
「じゃあ、手繋ぐのやめよか?」
『ぇ…』
「バカップル嫌なんやろ?極端やけど、ハグもちゅーもやめとこか?」
『…』
自分の意図がわかったのか、軽く目で怒りを訴えられるが、気の持ちようの問題でもあるので、ここはぐっと堪える。
『…嫌や』
「うん、俺も嫌やわ」
彼女は心配性のようだった。
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作者名:そういろね | 作成日時:2019年4月4日 4時