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「 動くなよ 」
「 ひ 」
「 バカ、動くなって 」
「 わっ……！ 」
身長差があるからか、覆い被さるように袖に手を触れるルルーシュの声が、Aの耳元に深く響く。
どちらにも下心がなかった故に、ここでようやく距離が近すぎることに気がついた。
「 なっ……！ お、お前がやれと言ったんだろう！ 」
「 ごごごごごめんなさい！！ ルルーシュの声がこんなに…その 」
「 やめろ、何も言うな！ 」
Aは両手が濡れていることもお構い無しに顔を覆い、羞恥からヘナヘナとその場に座り込んでしまった。
ルルーシュは洗剤の洗い流された食器を水切りカゴに適当に置き、どうしたものかと額に手を添える。
その時、自分も彼女に負けないくらいに熱を持っていることに気がついた。
「 ら、来客用の部屋に案内する 」
「 うん、ありがとう…… 」
引き出しの中から手を拭くために使われるタオル( 新品未使用である )を取り出し、少し乱雑にAの顔を拭いてやる。
「 ぶっ、んぶぅ 」と間抜けな声が聞こえてもお構い無しに拭き続けると、さすがに制止の声が飛んできた。
「 もう濡れてないから！ ルルーシュのバカ！ 」
「 なっ……！ お前はなんて顔をしてるんだ！ 」
再びタオルを顔に押し付けられ、くぐもった声が隙間から聞こえてくる。
だが赤く染まった頬に潤んだ瞳は、ルルーシュも健全な男子高校生である以上あまり見てはいられないものだった。
「 いいか、こっちを見るなよ 」
「 うぅ、横暴だあ…… 」
細い手首を掴んで立ち上がり、客室へと向かって廊下を歩く。
気まずい空気が流れる空間では、すぐそこにある客室は何故か遥か遠くに感じた。
「 る、ルルーシュ 」
「 なんだ 」
「 手、痛いかも…… 」
ナナリー以外の女の手に触れたことがなく、力加減をよく分からないルルーシュは「 すまない 」と素直に謝罪する。
軍人だというくせに、少し力を入れれば折れてしまいそうな腕だ……。
「 明日は軍の仕事はあるのか？ 必要なら咲世子さんに朝食を頼んでおこう 」
「 午後からあるけど、とりあえずお願いしてもいいかな。明日はまずシャーリーに会いにいこうと思うの 」
再び話題に上がる友達の名前に、ルルーシュは足を止めた。
「 お葬式の予定とか、聞かなきゃだし 」
絞り出すように、「 そうだな 」と相槌を返した。
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作者名：りり | 作成日時：2022年9月27日 12時
