十二時間目 ページ15
【あつしside】
「あれ…ここは……?」
ゆっくりと松野が体を起こす。
「どうやら廃校らしい。…何でここにいるのかはわからないけど」
僕がそう説明すると、松野は真っ青な顔で周りを見回す。
そして僕に向き直り、泣きそうな顔でなにか言おうとするが、言葉が上手く出てこないのか、口をパクパク動かすだけだ。
と、彼はふと視線を下げ、自分にかけられていた学ランを持ち上げた。
「……これ、カラ松兄さんのだ…!」
「え?」
「裏地に青いバラの刺繍があるもん!…兄さん、一年生の時、背中に自分の顔の巨大なアップリケつけようとしてて…それで、僕が、裏地に小さな刺繍くらいならいいんじゃないって言って…」
そこまで言って、学ランを抱きしめて松野は勢い良く立ち上がり、僕に詰め寄った。
「ねえ兄さんは?兄さんは何処にいるの!?他の人達も一緒なの!?」
「お、落ち着いて…。…カラ松君は、一松君の声がするから探してくるって言って、さっき出ていった。…まだ近くしか探してないけど、僕達の他にまだ人は見ていない」
迷ったけど、さっき見つけた校内新聞に『天神小学校』と書かれていたことは言わないでおく。
松野は怖がりだから、錯乱して手がつけられなくなるかもしれない。
…そうなった時の対処法を、僕は知らない。
「多分、すぐ帰ってくるよ。ここで待ってよう」
「………嫌だ」
松野は僕から離れ、教室の扉まで歩く。
「松野?」
「待ってなんていられない!探しにいく!」
振り返った彼の目には、涙が浮かんでいた。
…またいつものワガママだ。これが出ると、こっちが何を言っても無駄だ。
「……わかった。暗くて危ないし、僕もついていくよ」
僕はそういって彼に近づき、二人で教室を出る。
…床に白い紙切れが落ちていたことに気付かないまま。
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作者名:RAN丸 | 作成日時:2017年3月21日 13時