ネガティブクラッシャー ページ2
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「おはようございます！」
「おはよう、Aくん。今日も元気だね」
アンティークな雰囲気を漂わせる洒落たお店のドアの取っ手を引けば、カランコロン、とベルの心地よい音が響き渡る。中で出迎えてくれたのは、私の職場であるこの雑貨店の店長、佐藤さんだ。
「あれ、もしかしてリップ変えた？前のキツネ色も似合ってたけれど、それは蘇芳(すおう)かな？いいね、大人っぽくて素敵だよ」
「褒めすぎですよ、佐藤さん…」
未だに慣れない恒例行事に思わず顔が歪んでしまう。
この男、佐藤凛之介という人物は人を過剰に褒める節がある。別に嫌味だとかそう言った類ではなく、純粋に心から思った事を素直に伝えているだけなのだろうが。
しかしこの特性は従業員の私だけでなく店に来るお客様にさえ発揮してしまうのだから、難題だ。綺麗に手入れされた髪だ、とか、花のような笑顔だね、等々甘ったるい言葉で雌蜂を上手く絡めとるのだから恐ろしい。世間ではセクハラだと騒がれる一歩手前の台詞を紡いでもこの人が訴えられないのは、その整った容姿のおかげだろう。
年齢はまだ三十路にもなっていないのに、たまに見える年寄りじみた喋り方とのギャップに物腰柔らかな表情。なのに体躯は思ったよりガッチリとしていて、上背もある。それでいて胸焼けしそうな女の喜ぶ言葉を吐くものだからたまったもんじゃない。
こんなこじんまりとした、悪く言えば古めかしい雑貨屋の常連客の大半がうら若いOLばかりだというのは、つまりそういう事なんだろう。
まぁ私もそんな彼の優しさに甘えて身を置かせてもらっているのだから実質は彼女らとは変わらないのだろうけど。
とどのつまり、突然会社を辞めて泣きながら転がり込んできた私を面倒見てくれるくらいには、彼はいい人だってことだ。
「そんな事ないよ、そのスカートだってよく似合ってる。君には可愛いらしい色が似合うね」
「……いつか寝首を搔かれますよ」
降り止まないアメの嵐に、早い所、砂糖さんに改名した方がいいのではないかと呆れながら今日の作業に取り掛かった。
‥
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作者名：ヤマト | 作成日時：2020年3月4日 3時
