底の抜けたマグカップ【白布賢二郎】 (ページ1)

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溶けかけて春の霜ページ1

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ようやっと肌寒い季節が過ぎ去って、過ごしやすい時期になってきたと思う。少し前までは厚手のコートを着ないと外になんて出られなかったのに、最近ではトレーナーだけでもなんとかなる様になってきた。
風も、切り付けるような鋭く冷たいものではなくなって、暖かくて柔らかい、ほがらかな風が過ぎ去っていく。
街全体が、麗らかな雰囲気に変わりつつあるのが感じられた。家の庭の雑草も少しづつすくすくと成長していて、これはまた近々手入れをしないとな、なんて思いながら朝一番の紅茶を啜(すす)った。

身支度を整えて、履きなれたスニーカーで表へ出れば、マキシスカートの裾がふわり、揺れる。
こんな、いかにも女の子らしい服装は何時ぶりだろうか。スカートを摘んでまじまじと見つめながらふと思う。薄桃色をベースとした布に、ウツギの花だろうか？控えめに淡い色合いでプリントされた白い花々に、全体に覆い被さるきらきらのチュールなんかが実に乙女が好きそうな代物だ。
少し、いや大分、服に着られている感はあるがたまにはいいじゃないかと思えるほど、今日は優しい空気が流れている。

「今日も平和だといいな」

ご近所さんの庭木のざわめきと、可愛いらしく唄を唄う小鳥たち、道路の脇に芽吹くつくし。それら全てが、これから訪れる春を祝福しているようで自然と笑みがこぼれる。
腕時計にチラリと目をやって、私はそれらを堪能しながら、ゆっくりと職場に向かった。

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