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8話 ページ8

スカートの裾を翻して全力疾走した果てに飛び込んだのは、楽器が置いてある暗い部屋。
暗幕で外の世界を閉ざされた閉鎖空間は心を落ち着かせたい私にとっては好都合だ。

乱れる息を整えながら、私は俯いてただその場にしゃがみ込んだ。熱くなった目頭からポタリと一滴の雫が落下して、じわりと視界が滲む。

「お兄ちゃん、お兄ちゃん。どうしてお兄ちゃんは、死.んでしまったの?」

この問に答えるべき人は、もういない。
あの時、何気ない挨拶の言葉一つでもかけていたら、全てに絶望した目を私に向ける兄を救えていたのだろうか。最終的に、最愛の家族の死はもしかしたら、何も出来なかった自分のせいかもしれない。置き去りにされてしまった喪失感に嘆き悲しむほかなかった。

私の嗚咽が部屋に響き渡ったとき。
ふいに、目の前でガコッと何かが開く音がした。

「何じゃい、近くで騒がれると頭痛がするんじゃけども……」

気怠げな声と同時に、その中から人が現れた。

思わず目を奪われる、奇妙な美貌で綺麗な顔立ち。深紅の瞳、緩く波を打ち闇に溶ける長髪の男性がそこにいた。頭が上手く働かなくて、私はただ呆然と、彼を見つめる。

眠たそうな彼は何を思ったのか、困ったように親指で私の涙をぬぐった。口を開こうとしたけれど、驚きのあまり何も言うことができない。

「どうして、泣いておるのだ?……あんず」

「え?」

上から降ってきた予期せぬ人の名前に思わず顔を上げると、その意味を聞くより先に、ゆっくりと真っ直ぐ伸びてくる、彼の腕。

それはまるで、映画のスローモーション映像のようで、ふわりと彼の香りが鼻腔をくすぐった瞬間、反射的に瞳を強く瞑った。
冷たくも心地よいその温度に、思わずそのまま寝てしまいそうになる。

小さい頃、兄とこうしてくっついて寝ていた事を思い出す。懐かしく安心する温度に包まれて私は睡魔に身を任せた。

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F:(プロフ) - あたたかいコメントありがとうございます。空白の件に関しては、バランスよく間をとって書いていく、ということに決めました。拙い文ばかりの作品ですがこれからもよろしくお願いします。コメント欄での返信、失礼しました。 (2020年2月5日 10時) (レス) id: 722605b18e (このIDを非表示/違反報告)
Mashiro Lio(プロフ) - コメント失礼します。空白のことですが、今のままで大丈夫だと思いますよ。確かに適度な空白は読みやすくなるでしょうが、あまり多いと逆に読みにくくなりますし(占ツク内のかなり多くの作品がこれに当てはまります)、私はこれくらいが「小説」らしいと思いますよ。 (2020年1月11日 21時) (レス) id: 088a429c13 (このIDを非表示/違反報告)
みゆ(プロフ) - コメント失礼します。あくまで私個人の意見なのですが、言われてみれば他の作品より空白少ないかも…?程度で、気になってしまうほど読みにくくはないですよ! (2020年1月11日 20時) (レス) id: b98ca5a8bc (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:F: | 作成日時:2019年12月25日 16時

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