二十九本目の火柱 ページ29
｢凄いな鯉登さん、なんでも出来るんだな！｣
｢ふふっ、まあな。｣
自慢げに胸を張った鯉登さんにいつの間にかこちらにやってきた杉元さんが突っかかっていく。
｢いい加減にしろ鯉登少尉！お前は樺太公演に必要ないぞ！！｣
｢！…文句があるなら実力だ私の芸を凌駕すれば良いだろ。私に軽業を止めさせようとするのは……貴様の『血みどろハラキリ芸』に自信がない表れではないか？｣
地面と平行になったまま続ける鯉登さん。
｢その程度で『この街に杉元の名前を轟かそう』など片腹痛いわ！！！｣
｢ぐぬぬ……最もらしいこと言いやがって…！｣
思い切り論破された杉元さんは山田さんに引っ張られて練習に戻った。
少し離れたところでその二人を見ていると苦戦はしているよう。
……というか山田さんが大変そうだ。
｢おい、お前、自分のことはいいのか。｣
｢ん？そうだな、練習はいらない。指示すればその通り動くが、基本は自分で動くしなあ。｣
あの時見せた火の玉は古戦場火となった魂だ。
魂なのでもちろん意思もある。
だから私は彼らに会うことが出来たのだから。
｢なあ長吉くん、私が出来そうな軽業ないか？私もやってみたい！｣
｢ええ、いいですよ。｣
.
鯉登さんには及ばないが中々の出来だったと思う。長吉くんにも褒められたし。
軽業は得意なほうだろう。
みんなが練習しているなか私だけ遊んでいるようだったから少し居ずらかったのも事実だ。
これなら外で聞き込みしたほうが良かったか？
そう一人で考えているとあの、と控えめに声をかけられた。
｢その、ちょっと急な話なんですけど…。
今回の公演、出られない人の代わりに出てもらうってことじゃないですか。…その急遽もう一人出られなくなってしまって……。｣
出られなくなってしまった人、恐らく私の隣で練習していて落ちてしまった人のことだろうか。
｢あなたも軽業は得意のようだし、…出ていただけませんか？｣
ふむ、なるほどな。
別に断る理由もない。
私は二つ返事で承諾した。
さて、明日から練習だっ。
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作者名：きょーりん | 作成日時：2019年3月23日 21時
