１４１話 ページ6
「…汚いですけど。」
ぎこちない仕草で扉を開け、こちらへどうぞ、と手を添える。
「自分で言っといてあれなんだけど、女の子の部屋に入るの気が引けてきたよ。」
「じゃあ、帰りますか。」
「帰らない帰らない！」
今更、女子の部屋に入るくらいがなんだって言うのか。モテモテな及川さんには見慣れたものだろうに。
「…えっ、何その目。」
「いえ別に。」
扉を閉める。いつもの簡素な部屋にはまだ明かりが点いていない。カーテンも締め切っていて、月明かりも入らない。
「急に泊まるなんて言われたので、なんのお構いも出来ませんけど。」
「あー、いやこっちこそ急に言ったりしてごめんね。」
「…別に、いいですけど。」
妙な空気が流れる。次に何を話そうか、なんて今まで考えずに話していたはずなのに、今は考えるだけで精一杯だ。
「…Aちゃん、一人で住んでるんだよね、ここに。」
部屋まで一直線短いの廊下を抜けて、ベッドと小さなテーブルが置いてある小さな部屋に入る。少し戸惑いながら、及川さんはベッドに腰かけた。
「そうですよ。実家は神奈川なので。」
部屋に明かりをつける。松葉杖を立て掛けて、私も一緒にベッドに腰かける。
「まあ、もう慣れましたけど。」
一息つき、また妙な空気が流れる。
「…あの…。」
「…なに？」
「さっきからなんですか、この空気。」
私の言葉に、びくっと身体を震わせる。
「妙に居心地が悪いというか、気持ち悪いというか、及川さんが部屋にいるからですか？」
「結構散々なこと言うね！？」
勢いのあるツッコミをしてから、また沈黙。
口をもにょもにょさせて、何か言いたげに恥ずかしそうに目を泳がせている。
「…なんなんですか。」
「いや、だってほら…」
俯いた顔のまま、横目で私を見る。顔が少し赤い。
「好きな女の子の家に来て、何も思わないのは…ないじゃん…？」
「…。」
今、私は少し驚いている。と同時に胸が暖かくなる感じがした。
「…好きな女の子、ですか」
今度は、及川さんが驚いている。
多分、私がいつになく嬉しげな笑顔をしているはずだから。
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作者名：あおインコ | 作成日時：2018年11月26日 22時
