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34-テディベア- ページ34

亮のことは好きなのに。


錦「なんで泣いてるん?」


ステージの上から喧騒に紛れながらも声が届く。

脇にはける時にかけられた言葉。

そんな優しさが胸をギュッと締め付けたから、

急いでライブハウスを飛び出した。

来る時は晴れていたはずの空が、

今はどんよりと雲が落ちていて、

外に出た途端に大粒の雨が降り出した。

傘…。

あの日貸した傘はどこにあるのだろうか。

もしも、まだ、章大くんが持っているとしたら…。

ううん、それを知ることはないのだから、

この雨と一緒に気付いてしまったこの気持ちは、

知らなかったふりをして流さなきゃいけないんだ。

涙は雨と共に。

開いてしまった心の蓋は…雨に濡れないようにそっと蓋をして奥底に沈めた。


錦「昨日、なんで先帰ったん?」


翌朝、亮が不満気に話しかけて来る。


『…顔が…ぐちゃぐちゃすぎて恥ずかしかったから…』


錦「…」


覗き込むように私の顔を覗くから、

思わず目を逸らしてしまうのに、


錦「ちゃんと冷やしたん?腫れとる…」


伸びた指先が瞼に触れる。


『…冷やしたつもりだったんだけど…』


錦「隠しとき」


瞼に触れていた指が前髪に触れて、

少しだけ目にかかるように揃えられる。

…亮…。

何も言わないんだね。

なんとなく、気が付いてはいるんでしょ?

それでも、知らないフリをするから、

私も気付かないフリをした。

音楽室で会う回数は流石に受験生だしということで減ったけど、

それでも私がピアノを弾くという日には亮も来て

ギターを鳴らすから私も適当に弾いて合わせて遊んでいた。

最初はぎこちなかったセッションも今は普通になったことで、

時間が過ぎるのがよくわかる。

文化祭も終わって

街中がクリスマスムードに包まれて、

そんなに浮かれる余裕があるわけではなかったけれど、

今までと同じように過ごしていて

そしてクリスマスには

真っ白のクマがサンタの格好をしたぬいぐるみをプレゼントされた。

黄色いバラを5本抱えたテディベア。

この意味を理解するのに少しだけ時間を要したけれど、

それでも亮はこの頃には決めていたんだね。


.


冬休みを迎えて、新年が来て。

初詣に出かけたのはこれで2回目。

約束の絵馬は合格祈願。

何もなかったように、

気付かなかったように過ごしているうち半年過ぎて、

迎えるのは卒業式。

35-卒業-→←33-恋の音と雨の空の歌-



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華絢(プロフ) - 蒼乃碧さん» どうなりますかねぇ(ノω`*)んふふ♪ もう、なるように…的な(´・ω・`) (2018年4月1日 21時) (レス) id: 479a0f7ed2 (このIDを非表示/違反報告)
蒼乃碧(プロフ) - くはぁ、せつない…(´;ω;`)これからどうなるのかな…。 (2018年4月1日 6時) (レス) id: b2e7866667 (このIDを非表示/違反報告)
華絢(プロフ) - ひみささん» ひみささん、いつもありがとうございます(〃ω〃) 珍しく学生設定にしてみましたー♪ お付き合い頂けたら嬉しいです(〃ω〃) (2018年3月22日 21時) (レス) id: 479a0f7ed2 (このIDを非表示/違反報告)
ひみさ(プロフ) - 新作公開ありがとうございます(*^^*) 高校生なんですね〜、黄色もあるんですね〜、色々楽しみです♪ (2018年3月22日 14時) (レス) id: 6eb2ce4a4e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:華絢 | 作成日時:2018年3月22日 13時

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