肆拾壱話 ページ3
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「夕飯はこの貸し切り船上レストランで夜の海を堪能しながらゆっくり食べましょう」
あー、気持ち悪い。
海の波に揺れながら夜ご飯?…無理すぎる。
室内の外に出て夜風に当たりながら手で顔を仰ぐ。
「まずはたっぷりと船に酔わせて戦力を削ごうというわけですか」
「当然です、これも暗殺の基本のひとつですから」
「実に正しい、ですがそう上手く行くでしょうか。暗殺を前に気合いの乗った先生にとって船酔いなど恐れるに、」
「黒いわ!!」
片方はワイングラスを持って、片方は自分の顔を指さしてそう言うせんせいの顔は相変わらず真っ黒。
「そんなに黒いですか?」
黒いから何か元に戻す方法……あ。あるじゃん元に戻す方法。
ピンときた私は室内に入り、口を開く。
「表情どころか前も後ろも分からないしややこしいでーす」
ニコニコ。
明らかに企んでいる笑みを表に出してしまったけどそれはしょうがない、でも許してよ。だってあのせんせいは騙されてくれるんだから。
「ヌルフフ、先生には脱皮があるので黒い皮を脱ぎ捨てればホラ、元通り」
ほら、かかった。
馬鹿だねー、せんせいも。誘導尋問に引っかかるなんてさ。
「あ、月1回の脱皮だ」
「こんな使い方もあるんですよ、本来はヤバい時の奥の手ですが…………あっ、」
どうやら今ごろ気づいたらしい。もう遅いのにね、これで戦力が減った。
「今のは態とかい?…否、態とだろうねェ」
「聞くまでもなく、って感じで来るなら聞かないでください太宰さん。…当たり前です、そうじゃなきゃ酔うのに室内に戻って来ないですよ〜」
あ、やばいやばい。本気で気持ち悪くなってきた。
頭がグワングワンして体の内臓器官が気持ち悪くなる感覚が私を襲う。
浅い深呼吸をして髪を耳にかけた。
「…君、そんなに乗り物酔い酷くなかっただろう?」
「体質は変わるものですよ太宰さん」
でも確かに太宰さんの言う通りである。
前まではそんなに乗り物酔いは酷くなかった、でも急に酔うようになった。
理由はあるんだろうけど解明するのも面倒くさくてそこまで迷惑はかけないから放置してる。
いや、そんな話よりも。
一般的な学生の嬉しい夏休みに入ってまで密かな特訓をして仕込みも万全。
磨いてきた刃をせんせいに届かせないと。
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たびのひと - はじめまして!とても面白いです!一日で全部読んじゃいました!更新待ってます! (2020年5月18日 23時) (レス) id: 06a128996a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:カノ | 作成日時:2020年1月12日 2時