03.ほろ苦い色恋沙汰 ページ5
お世辞にも清潔とは言えない彼にシャワーを浴びる事を勧めたため、浴室の方から断続的に続く水の音が聞こえてくる。
その音を背に台所に立ちテキパキと用意を始める。
水を張った鍋にほんだし、味醂、白だしを小さじ1杯づつ投入し沸騰するのを待つ。
その傍らで梅の種を取り除いて包丁で潰し、身をほぐしてから茶碗によそったばかりのツヤツヤ白米の上に乗せる。
そして、刻んだ三つ葉をパラパラと乗せれば用意万端。
鍋から出汁の良い香りも漂ってきた。
二日酔いの胃でも受け付けそうな優しい匂いに心躍る。
と、頃合いを見計ったように少年が上がって来た。存分に髪に水分を含ませているのでドライヤーをかけてくるように指示を出し浴室に向かわせた。
……一拍置いて高鳴る胸。
彼シャツならぬ、ぶかぶかスウェットの破壊力は凄まじい。彼の細い肩の曲線が儚さを作り出し腕にたるむ袖があどけなさを作り出す。
上下共に暗灰色も髪色と調和していてよく映えていた。
お泊まり用に置いてあったスウェットがこんな所で役に立つとは……。ほろ苦いものだ。
頬を両手で軽く叩く。
昨日のヤケ酒でもう吹っ切れたはずだ。
大丈夫、大丈夫、大丈夫。
｢よしっ｣
気を取り直して、最後の工程に取り掛かる。ダシ汁を茶碗に流し込めばめでたく完成。
2人前の茶漬けを机に置くと、またもやグッドタイミングで現れた少年。
｢あっ丁度出来た所！座って座って！熱々のうちに食べよっか｣
遠慮がちにやって来た少年の肩を押して椅子に座らせる。
｢んじゃ、さっそく、いただきます！｣
｢……いただきます。｣
ゆっくりと蓮華を口に運んで噛み締めるように咀嚼する少年。
茶碗を持ち上げて反応を伺う。
｢とっても……とても美味しいです。｣
｢そっかぁ、よかった｣
溢れる大粒の涙には触れずにただ笑いかける。
私も弱った胃に温かな茶漬けを一気に流し込んだ。素朴な出汁が梅干しの酸味をより引き立たせ口内いっぱいに広がる。
どことなく懐かしい味がした。
共に言葉なく茶漬けに酔いしれた後に、恐る恐る切り出す。
｢ねえ。昨日私、どんな事口走った？｣
｢うっ、ごほごほっ｣
彼は器官に茶漬けを、詰まらせてで苦しそうに胸を叩く。
あちゃー。この反応……。
｢正直な所をお願いします｣
気まずそうに視界を漂わせる彼の目を真っ直ぐ見つめる。
｢恋人の馴れ初めから最近の事情まで幅広く。
僕が聞いていいような事じゃないのにすみません｣
想像通りすぎて衝撃が走った。
――撃沈。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 51人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
司(プロフ) - 黒猫さん» コメントありがとうございます！こんなハチャメチャな夢主、需要あるのかな？と不安だったので、そう仰って頂けると嬉しいです！オチはですね……。後々あかしますね。個人的にオチを先にお知らせするというのはどうにもピンとこなくて……個人的な見解で申し訳ないです (2017年7月28日 18時) (
レス) id: b086ef1462 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫 - うわぁぁぁ文才ありすぎません？設定がしっかりしてて読んでて楽しいです！！渡辺ちゃんの謎？も気になりますし…笑笑。あと気になるのはこの小説って誰落ちなんですか？（太宰さんがいいなぁ…←図々しい汗）更新頑張ってください！！！ (2017年7月26日 13時) (レス) id: a8e89100ce (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：司 | 作成日時：2017年7月2日 15時
