38話 ガープside ページ41
「大将に、なりたい」
Aから発せられた初めての願い。
俺はずっとこの子の我が儘が聞きたかった。
しかし、この「なりたい」も、我が儘じゃあない
人のためだ。
ー…Aが三歳の時。
Aが犬を連れてきていいかと聞いた
俺はその時Aの我が儘だと思って、犬は飼えないとその願いを切った
Aはしばらく黙って、三歳児とは思えないしっかりとした駆け足でその場を去った
数時間後、治療室のそばを通った時少し騒がしいことに気づく。
「なにしとるんだ?」
俺が近づくとナースたちは少し慌て、中にいる人物に近づいて行った
それについて行くと…
「A?」
真剣になにかに向かっているAの姿があった
その手元にいたのは…
怪我をした、犬の母子。
「…お前…犬連れてきていいかって、
そういうことか」
犬を飼いたいという我が儘ではなく、犬を連れてきて、治療していいかということだった
見事な手際で治療を終えたAの周りに、嬉しそうに飛び跳ねる子犬たちの姿があった
怪我をしていた母犬も穏やかな目で自分の子供らとAを見ていた
Aが手を近づけると、母犬はその手に擦り寄る
「よかったね、きっとまた走れるよ
自由に。」
自由に。
その言葉が異様に耳に残った
彼女が発する我が儘が、それなんじゃないかと
自由に。
ーーーーー…
それからだった、彼女のこれからをもっと深く考えるようになったのは
あの男の子供が、この先ずっと、人より束縛の厳しい人生を望むのか、耐えられるのか。
もっと自由に走りたいんじゃないか
海に出たいんじゃないか
どこまでも、後ろから呼ばれることなく進みたいんじゃないか
…ーしかし、Aは訓練を楽しんでいた。
目に余る時はあったが、戦闘中はそれは活き活きとその腕を振るっていた
今だって、強くなることをきっと、誰よりも望んでいる
その目の奥には覚悟があった。
この歳で何をそんなまっすぐ見つめる覚悟があるのだろう
俺はこの子の頭を、頬をなで、厳しくしてやることしかできないのだから、
まだ甘えられる限界まで、甘やかしてやろう
「ぶわっはっはっは!!大将か!!でかいなァ!
だがお前なら夢じゃあないっ!
お前の願いを応援しよう、お前が生きたいように生きなさい」
大きな瞳が嬉しそうに揺れる
お前もまだ分からないことを、おれは分かっている。
本当にお前が生きたい道は…
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作者名:ひはる x他1人 | 作成日時:2017年7月28日 18時