検索窓
今日:2 hit、昨日:32 hit、合計:131,429 hit

第273話 ページ49

.


「‥‥ばれたら私のやってること自体が無駄になるって、考えましたか? 実験のことはごく一部の人間しか知らない最重要機密です。それをあろうことか盗み見したなんて、殺されても文句言えませんよ?」

腕で目を覆ったままぶつけられた声は、若干の苛立ちを含んでいた。その行動で自分が無駄に苦しんだだけになるかもしれないと、言外にそう言っている。

彼女はついに自分を反論の材料に使い始めた。余裕がなくなっている証拠だった。


百夜は自分が周囲にどれだけ思われているかを理解していない。それでも、俺達が自分のことを助けようとしているということはわかっている。俯瞰でその事実だけを理解しているのだ。だからそれを利用している。


「そこまでして私を止めたいですか? なんのために? 自分達の命が保障されてるのに、それを捨てようとする理由は一体何ですか?」

「言わないとわからないか」

風間さんの声も苛立ちを含み始めた。歌川が視界の隅で、はらはらとした顔で成り行きを見守っている。菊地原は体育座りのままいつもの顔で口論を眺めていた。


「‥‥なあA。おまえ、何をそんなに怖がってんの」

ずっと黙っていた出水が不意に言った。風間さんの言葉に反論しようと動きかけた百夜の口が閉じる。

怖がっている、という言葉に俺は風間さんと少し顔を見合わせ、出水を見る。出水は百夜を見つめて、不可解そうに眉間に皺を寄せた。


「この場が始まってから‥‥いや、柊暮人に初めて尋問された日からずっと思ってた。おまえ、おれ達に対してずっと何か怖がって、踏み込まれること余計に拒絶してるだろ」

百夜は何も言わない。出水の指摘は彼女の痛いところを突いたのだろう。

5人とも黙って百夜を見ている。彼女はじっと口を噤んだまま微動だにしなかった。何分経ったかと思った頃にその唇が何かを言うように微かに動いた。が、それは俺達に向けられたものではない。声も小さすぎて聞こえなかった。

しかし菊地原だけはやや大きく目を見開いて、でもその内容が何だったのかは言わなかった。


.

続編行きます→←第272話



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (73 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
160人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

じゆんきむ(プロフ) - 返信ありがとうございます。楽しみに待ってます! (1月11日 21時) (レス) id: 3005c0f58d (このIDを非表示/違反報告)
夏向(プロフ) - じゆんきむさん» 返信遅くなりすみません。現在修正中なんですがリアルが忙しくて…。年度内には再公開できればと思っております (1月11日 2時) (レス) id: b371f4960f (このIDを非表示/違反報告)
じゆんきむ(プロフ) - 7個目の話はいつ公開されますか?? (12月27日 1時) (レス) id: 3005c0f58d (このIDを非表示/違反報告)
雫鶴鳩 - ありがとうございます!!見捨てなんてしませんよ(笑)これからも更新頑張ってください!! (2017年10月21日 17時) (レス) id: 86c88d0ffc (このIDを非表示/違反報告)
夏向@テスト期間は低浮上(プロフ) - 雫鶴鳩さん» (続き)読みにくいかと思われますが、今後はそのように解釈していただけると嬉しいです。これからもこの小説を見捨てないでいただけると大変ありがたいです! (2017年10月21日 10時) (レス) id: 2e5a8262c2 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:夏向 | 作成日時:2017年10月10日 16時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。