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第269話 ページ41

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百夜が壁を作れば、それを破るのは容易ではなかった。話さないと決意した彼女は鉄壁で、でもそれを壊す努力をしなかったのは俺だ。

当人の意思を無視して話させるのは間違いだと断言できる。誰にだって秘密の1つや2つ、3つや4つあるだろう。彼女はそれが人より大分多かったというだけの話だ。

だが百夜の壁を破る術を少しも知らなかったことで、結果的に彼女自身について何も知らないという現状に陥った。

隊長として、全部から百夜Aを守ると決めた。隊に勧誘した時もそう言った。彼女はそれに「ちゃんと守ってくださいね」と言ったのだ。

「俺はまだ、おまえを何からも守れてない」

「‥‥私をボーダーで噂から守ってくれたのは、他でもない太刀川さんです」

「そうだろうな。でも、隊長って肩書の力だろ、それは。俺自身の力で百夜を守れたことは、多分一度もない」

「そんなことない!!」

彼女はやや声を大きくして必死に主張した。それに面食らっていると、百夜ははっとして乗り出した身を引き、声を抑える。

「‥‥皆は、太刀川さんは知らないんです。‥‥私が、どれだけ‥‥今まで何度救われてるか」

「‥‥‥」

「‥‥だから、どうか‥‥どうか、そんなこと言わないで‥‥」

くしゃりと顔を歪めた百夜は、今にも泣きだしそうだった。あの彼女がこの短時間で何度も感情を決壊させていることに、今更のような驚きがあった。

だが、それでいいと思う。彼女はまだ17歳で、子どもだ。笑って、泣いて、怒って、迷って、悩んで。感情をコントロールする必要もなく思うままに爆発させていいのだ。


「‥‥なあ、百夜。おまえが俺達を利用したいなら、そうすればいい。むしろ、もっと利用しろ。頼れ。何のために俺達が───仲間がいると思ってんだ」

1人ではなく、チームで戦っているのだ。どうしてそれが戦場だけに限られるだろう。
戦う場所はどこでだっていい。仲間ができないことは、難しいことは、抱えきれないことは、同じ仲間が助けて、補って、共有すればいい。


「‥‥まあ、な? 俺は百夜より頭回んねぇから、頭脳労働系はおまえに一任するけどな?」

「‥‥せっかくかっこいいこと言ってるのに台無しですよ、それ」

「戦闘に関することなら自信を持って任せろと言える」


不意に、百夜の表情が和らいだ。そして小さく吹き出したかと思えば「っふ、ふふ、あはは」と笑う。心の底からの笑顔を見たのが初めてな気がするのは、変な話だ、と思った。


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じゆんきむ(プロフ) - 返信ありがとうございます。楽しみに待ってます! (1月11日 21時) (レス) id: 3005c0f58d (このIDを非表示/違反報告)
夏向(プロフ) - じゆんきむさん» 返信遅くなりすみません。現在修正中なんですがリアルが忙しくて…。年度内には再公開できればと思っております (1月11日 2時) (レス) id: b371f4960f (このIDを非表示/違反報告)
じゆんきむ(プロフ) - 7個目の話はいつ公開されますか?? (12月27日 1時) (レス) id: 3005c0f58d (このIDを非表示/違反報告)
雫鶴鳩 - ありがとうございます!!見捨てなんてしませんよ(笑)これからも更新頑張ってください!! (2017年10月21日 17時) (レス) id: 86c88d0ffc (このIDを非表示/違反報告)
夏向@テスト期間は低浮上(プロフ) - 雫鶴鳩さん» (続き)読みにくいかと思われますが、今後はそのように解釈していただけると嬉しいです。これからもこの小説を見捨てないでいただけると大変ありがたいです! (2017年10月21日 10時) (レス) id: 2e5a8262c2 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:夏向 | 作成日時:2017年10月10日 16時

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