第256話 ページ28
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出水の退院後に戻った部屋は、あの時の襲撃を感じさせないほど元通りになっていた。
柊暮人は俺達から手を引くと百夜に言ったらしいが、それですぐに安心できるほど能天気ではない。彼女から散々「この組織の人間を信じるな」と言われていたのもあった。
4徹による睡眠不足は解消されたのに、あの地下での出来事について考えるとまた眠れなくなった。
実験動物、欠陥品、と自分を揶揄した彼女の顔が脳裏にこびりついている。柊の血。裏切り者。勘弁してくれよ、と言う出水の背中は震えていた。
再生された記憶を振り切るように寝室を出た。蛇口を捻ってグラスに水を注ぎ、飲み干す。
ふと背後に気配を感じて振り向けば、百夜が軍服姿のまま立っていた。部屋の入り口にいたから、今帰ってきたところなのだろう。
「こんな深夜に仕事か?」
「‥‥まぁ‥‥はい。そんなところです」
「寝てるのか」
「‥‥それなりに、は」
その声にいつものような張りがなく、代わりに疲労を感じ取った。寝てる、というのはきっと嘘だろう。
「‥‥確かに俺らはこの世界じゃ頼りねぇし、逆に百夜に守ってもらわないと死ぬ立場だが」
「‥‥は?」
「もうちょっと、俺らを信用して話してくれてもいいんじゃねぇか」
百夜は「それは」と言ったきり閉口した。そして次に出た言葉は、「‥‥すみません」だった。謝ってほしくて言ったつもりではなかった。
彼女は大抵のことは1人でなんとかしてしまう。それができるだけの能力も地位も、ここにはある。だがそれが寂しいと言ったら、百夜はどんな顔をするだろうか、と思った。
これは単なる隊長としての責任感か、はたまた親心か、もっと別の感情か。今の俺には判別のしようがない。
「‥‥謝んなくていい。おまえは何も悪いことはしてない。いつだって俺達のことを考えてくれてる。そこはめちゃくちゃ感謝してんだ。おまえがいなかったら多分、吸血鬼に捕まってるかとっくに死んでた」
「‥‥‥」
「俺は多分、柊暮人には勝てない。だから一緒に戦うのは難しいと思う。悔しいけど」
鬼呪装備、とやらを使ったあの男に勝ち目がないことはわかる。強い敵と戦いたいという気持ちはある。
でも出水や風間隊、それから百夜の命を背負ってまで、あの男と戦おうとは思えなかった。これまでの敵とはわけが違う。
「‥‥でも、話くらいは聞かせてほしいんだよ」
何も知らないまま彼女に全てを委ねたくなかった。それはあまりにも無責任ではないか。
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じゆんきむ(プロフ) - 返信ありがとうございます。楽しみに待ってます! (1月11日 21時) (レス) id: 3005c0f58d (このIDを非表示/違反報告)
夏向(プロフ) - じゆんきむさん» 返信遅くなりすみません。現在修正中なんですがリアルが忙しくて…。年度内には再公開できればと思っております (1月11日 2時) (レス) id: b371f4960f (このIDを非表示/違反報告)
じゆんきむ(プロフ) - 7個目の話はいつ公開されますか?? (12月27日 1時) (レス) id: 3005c0f58d (このIDを非表示/違反報告)
雫鶴鳩 - ありがとうございます!!見捨てなんてしませんよ(笑)これからも更新頑張ってください!! (2017年10月21日 17時) (レス) id: 86c88d0ffc (このIDを非表示/違反報告)
夏向@テスト期間は低浮上(プロフ) - 雫鶴鳩さん» (続き)読みにくいかと思われますが、今後はそのように解釈していただけると嬉しいです。これからもこの小説を見捨てないでいただけると大変ありがたいです! (2017年10月21日 10時) (レス) id: 2e5a8262c2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夏向 | 作成日時:2017年10月10日 16時