第253話 ページ25
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深夜の会話は、誰も聞いていないようだった。4徹が尾を引いていたのと、地下での出来事によって精神的にかなり疲弊していたのもあったのだろう。おれを気遣って聞いていなかったふりをしているだけかもしれないが。
これからどうなるんだろうか、と思いながら各々朝食を終え一息ついた時、扉がノックされる。その向こうから顔をのぞかせたのはAだった。
「おはようございます」と挨拶をする彼女に、昨日の面影はなかった。
「公平、今日退院できるよ」
「え、まじで。おれまだ目ぇ覚めてから2日しか経ってないけど」
「手術から1週間近く経つしバイタルも検査結果も問題ないから大丈夫だろうってさ。後で主治医が説明に来るって」
そこで風間さんが訝しげに眉間に皺を寄せて、「問題なくても手術から5日経ってやっと目が覚めた患者だぞ」と言った。それは、とAが言った時、「目が覚めなかったのは怪我のせいじゃないだろ」と一瀬さんが口を挟んだ。
「どういうことですか?」という歌川の言葉に彼は答えず、「後は任せた」とAに言って出て行こうとする。
「ちょっと、そこまで言って説明しないの?」
「俺は6日寝てねぇんだぞ。さすがに今日は帰るからな。あとはおまえが何とかしろ」
彼女はそれに返す言葉を失くしたのか、無言で一瀬さんを見送る。無理をさせていたことは十分わかっているのだろう。
閉められた扉から部屋へと視線を戻し、5人分の注目の中彼女は「‥‥ええと」と言った。「どこから説明しようかな」
「‥‥なぁ、百夜」
不意に太刀川さんが口を開いて、問う。「‥‥おまえ、いっつも何見てんの」
何とは、とAが聞き返す。だが彼女を除く全員は、すぐにその質問の意図を察した。
「俺らには見えないもん見てるだろ、おまえ。それは何だ? 意識のない出水を見てるおまえの肌に浮かんでた黒い痣は何だ。地下で柊暮人の刀を止めたあれは何だ」
捲し立てるように問いを投げた太刀川さんは、若干苛立ちの混ざったような目をしていた。だがそこには悔しさも同時に存在している。
彼女に対する苛立ちではない。それは、何も知らない自分に向けられている。「出水が目を覚ますのに時間がかかったのは、柊暮人の刀にもおまえのみたいに何か仕掛けがあるのか?」
Aは無表情にその質問を聞いていた。それを聞かれるのは嫌だったのか、はたまた予想していたことだったのかは読み取ることができない。
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じゆんきむ(プロフ) - 返信ありがとうございます。楽しみに待ってます! (1月11日 21時) (レス) id: 3005c0f58d (このIDを非表示/違反報告)
夏向(プロフ) - じゆんきむさん» 返信遅くなりすみません。現在修正中なんですがリアルが忙しくて…。年度内には再公開できればと思っております (1月11日 2時) (レス) id: b371f4960f (このIDを非表示/違反報告)
じゆんきむ(プロフ) - 7個目の話はいつ公開されますか?? (12月27日 1時) (レス) id: 3005c0f58d (このIDを非表示/違反報告)
雫鶴鳩 - ありがとうございます!!見捨てなんてしませんよ(笑)これからも更新頑張ってください!! (2017年10月21日 17時) (レス) id: 86c88d0ffc (このIDを非表示/違反報告)
夏向@テスト期間は低浮上(プロフ) - 雫鶴鳩さん» (続き)読みにくいかと思われますが、今後はそのように解釈していただけると嬉しいです。これからもこの小説を見捨てないでいただけると大変ありがたいです! (2017年10月21日 10時) (レス) id: 2e5a8262c2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夏向 | 作成日時:2017年10月10日 16時