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「来月…いや、来週から私のもとで働くといい」
「こんな幸運、二度とないぞ!しかもこの私が直々にスカウトしに来てるんだからな!」
ちょっと待って…?
この人何言ってんの?
フフン、と得意気に笑う目の前の専務が本当に同じ人間か疑ってしまう
『お、お断りします…』
「キエ!?」
断られるとは思わなかったのだろうか
専務は心底驚いた様子で、鋭い目が真ん丸になるほど見開かれている
いや、普通の女性社員なら泣いて喜ぶのかもしれない
あの鯉登音之進の秘書なんて願ってもないことだろう
『今の仕事がやり甲斐があって好きなので…申し訳ありません!』
うん、そう
今いるここが好き
営業部の全員が好き
なのでごめんなさい!秘書にはなれません!!
「な、ないごて!?給料だって今の倍だぞ!?」
『今も充分いただいてますし…満足してます!お引き取り願います!』
「キエエエエエエ!!」
うるさっ!
いつの間にかフロアに人集りができてる
そりゃそうだ、こんだけ目立つ人物がこんだけ目立つことしてんだから
でも、でも、と鯉登専務は口説き文句をツラツラ並べる
なんて諦めが悪いんだろう
テキトーに返事をしているとついに痺れを切らしたのか
専務はプルプルと震えながら拳を握り、目には涙を溜め、黙り込んでしまった
『せ、専務…?』
「も、もう良い!!実力行使してやる!!」
『はい?』
涙目の専務はくるっと踵を返し、私のデスクから離れていく
なんだなんだと見物していた人集りも、オーラのある専務が向かってくるとモーセの海割りの様に綺麗に分かれた
良かった…帰ってくれた…
しん、と静まり返るフロアは嵐というよりも、巨大な竜巻が通過した荒地のようで、なにかもう取り返しのつかないような気がしてならない
『な、泣かせてしまった…』
「ちょっとちょっと何事〜?」
「朝っぱらから何したんだ」
両隣から見慣れた顔が2つ、私の間抜け面を覗き込む
『分かんないよ!こっちが聞きたい!』
いやほんとなに!?
なんで急に私!?
しかも専務が最後に言った実力行使ってなに!?どんなことしてくるつもり!?
怖いよ!なんなのォ!
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作者名:芝 | 作成日時:2021年9月28日 1時