溢れ出すほどに増えてしまった思い出。 ページ11
「Aちゃん、クッキー焼けたわぁ!」
こおばしいを通り越した焦げた匂いに心配になって来てみれば、それはただ一寸焼きすぎただけのなんてこと無い黒いクッキーであった。
Aちゃんに食べて欲しくてぇ!と言われればじゃあ有り難くと返事をし、クッキーを口に放り込む。そのクッキーは何故か砂でも入ったかのようにじゃりじゃりしていた。
『このほろ苦さがクッキーを引き立てるアクセントとして美味しいですね』
「え、砂糖沢山いれたから苦くないはずだけど‥」
ヒョイっとお隣さんもクッキーを口にいれる。お隣さんの顔は見る見る青ざめて口をバツにした。
「ごめんねぇAちゃん!!!!私!隠してたけどぉ‥‥お料理下手なのぉ!!!」
知ってる。というのは言わないけれど。お隣さんが精一杯作ってくれたからかそこまで苦くは感じなかった。何よりその心が微笑ましい。
『じゃあ今度は二人で作りましょうか』
ちろりとお隣さんを見ればええ!と嬉しそうに綻んでいた。その表情を見るのが大好きだった。
今度なんてなかった。
*
思い通りにいかない。ただ刀を振っただけ息も出来ない程に苦しみ痛い。そんな私があなたを、お隣さんを守れるはずなんてないのだ。絶対に。
あなたは私と一緒にいたいと言った。私もあなたと一緒にいたいと思った。思って、でも言わなかった。いられるはずがなかった。
私の手はもう手遅れだと言わんばかりに赤く染まって汚い。誰かを守る資格も無い程に汚れきって死が纏わりついている。
だから私はあなたに触れることを躊躇った。あなたが笑顔で私を見る度に心の奥底で罪悪感が積もった。
ど派手くんの家が見えると、足が自然と緩む。お隣さんが助かるまで油断は出来ないのにそれでも疲労と視界が暗くなってきたせいか情けないことに心も弱りきっていた。
玄関に、倒れ込む。地面を這い蹲り歯を食い縛って戸を強く強く、そして何度も叩く。
戸が開く。私の姿をみた、須磨さんの目が開かれる。悲鳴が聞こえる。その目で、やっと、やっと頭の中で何かが切れる音がした。
目から、何か流れてくる。
『お隣さんが!!お隣さんが街の路地で、倒れている!!!!お願い、助けてほしい……私じゃ、私じゃあ駄目なんです。いつ鬼が来るかも分からない、お願いだからっ……!!』
言うと、ぐらりと身体が揺れる。意識が暗転する。目が暗闇に染まりながらAさん!と呼ぶ声だけが、最後に聞こえた気がした。
何とも平穏で平凡で幸せで。→←ただ一人で死ぬことの辛さなど。
81人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ひいらぎ・いろ - 小冬さん» ありがとうございます、いつも小説を書く度に面白いか凄い不安になって、、そう言ってもらえて凄く凄く励まされます!これからも頑張ります! (2021年5月2日 7時) (レス) id: 3d1bfbcbe7 (このIDを非表示/違反報告)
小冬 - とっっても、面白かったです!!もう、夢主の反応とかがめっちゃ面白くていつも思い出して笑っています!!これからも頑張って下さい!! (2021年5月1日 23時) (レス) id: b394ae1541 (このIDを非表示/違反報告)
ひいらぎ・いろ - S_t0606さん» コメントがきたことにはしゃぐ人間はこの世にはいます。(ありがとうございます!)なるほど、、確かに夢主よく宇髄さんといますから、、もしかしたら、、? (2020年11月29日 20時) (レス) id: 79b860e9e4 (このIDを非表示/違反報告)
S_t0606(プロフ) - 宇髄さん宇髄さん宇髄天元様で落ちお願いします (2020年11月29日 17時) (レス) id: 3664f0360e (このIDを非表示/違反報告)
ひいらぎ・いろ - 氷華さん» まさか続編にいけるとは、、(←亀更新人間)こちらこそ、よろしくお願いします! (2020年11月14日 21時) (レス) id: 79b860e9e4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ひいらぎ・いろ x他1人 | 作成日時:2020年11月13日 0時