人形には、なりきれない。【加州清光】 (ページ18)

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「謝らないで。
もっと探して。
清光は、ここにいるから」

乱れた髪を掻き分け、私はその瞳を覗き込む。

「私の大好きな清光が、この中にいるから」

手を取り合い、一緒に育った私たち。

互いを想う気持ちが、いつしか姿を変えていた。

抱きしめたくて、独り占めしたくて、それを知られたくなくて。

ーー私は私の中から、清光を消そうとしていた。

私は私で、清光は清光だ。

いつまでも同じではいられない。

どちらかに合わせることも出来ない。

これから更に、もっともっと、違うところが増えていくだろう。

けれど、清光を好きだと思う気持ちは変わらない。

彼の手が、おずおずと私の胸を包み込む。

いつもの遠慮のなさは何処へ行ったのか。

その温もりに、私はふっと笑みが溢れた。

清光にも柔らかな心がある。

触れれば壊れてしまいそうな、けれど独り占めしたくなるような。

いっそ自分の手で壊してしまいたくなるような、脆くて儚い心。

その中に、宝物のように守られていた私がいるのだろう。

彼が私に触れたくなる気持ちが、分かるような気がした。

清光の頬を両手で包み込む。

息が触れ合うその距離で、唇が私の名前を紡ぐ。

それが声になる前に、私はそっと、唇で塞いだ。

・

・

・

気づけば公園に夜の帳が降りていた。

いつも嗅いでいたはずの花の香りが、一緒に歩いたはずの道が、今日は違う世界のように感じた。

私たちは、秘密の花園に帰らなかった。

代わりに、清光の家へ向かう。

彼の部屋に入るのは何年ぶりか。

其処は男子高校生の部屋だった。

学習机もベッドもカーテンも、全てがシンプルな部屋。

甘いコロンも何も無い、清光の香りだけがする部屋だ。

扉を閉めるまで、私たちはひと言も話さなかった。

鍵をかけても、何も言わない。

しんと静まり返った部屋の中、ひと言でも声を出せば、この世界が崩れてしまうような気がした。

今日が初めてだった筈のキスが、昔からずっとしていたかと思う程、自然と繰り返される。

お互いの唇の感触を知っていたかのように、それを確かめ合うように。

何故今までこうしなかったのだろうと、不思議に思う程だった。

部屋の明かりは消えたままだが、窓から差し込む月明かりが、私たちの身体を照らす。

まるで繊細な砂糖菓子を扱うように、清光は優しく私に触れた。