【銀魂】 吉原の遊女と鬼の話。

スカーフ ページ21

印が消えるまで
遊女は売り物にはならぬ。



なのに、なぜか今日
わっちに客が来たらしい。


いくら拒んで会えぬと言っても
店主はでろの一点張りで。



渋々ながら支度をして
客の待つ部屋に行く。



「Aでありんす。どうぞよしなに...」









定石通りの挨拶、


小さな空間に消える。




もう会うはずのない男。

「な、なぜぬしが.......」








わっちの心をかきみだす
もうあってはならぬ危険な男。









土方がいた。



「忘れモンとどけにきたんだよ。
ただそんだけだってのに、
金まで払わされっちまって....」









土方はそう言って






「簪.....」




なくしたと思っていた
忘れ物を差し出す。




手を伸ばしかけて気づいた、




自らの赤い印。







「.........っ！」








とっさに胸元を隠すも
見られた後。









いたい。

なぜか、心が痛い。








「.....見なんでくれ。
いま、わっちを.........

見せたくないのじゃ。




とどけてくれたことには礼を言う。



たのむからかえっ.......」








言い終わる前に
わっちの首にフワリと何かが掛かる。




白い、布。

土方のスカーフ。









「え....」









「そんなもん、隠せばいいじゃねーか。


考えろ。


それにな、こっちは金払ってきてんだ。

すぐさま帰されてたまるか。」









わっちの首に
土方の体温。



温もりに




土方の呆れたような

それでいて何処か思いやってくれるような

優しい表情。



ぶっきらぼうな物言い。






心臓が痛いほどに鳴って。







うれしいのに。





こんなふうに
わっちに思いやりをかけてくれる男などいなかったのに。









ありがとうの一言も出ず、









まるでその代わりのように、









静かにスカーフに雫が伝う。









恋をしてはいけない。

客の前でないてはいけない。



分かってるのに。









体と心が噛み合わない。




うまく自分を騙せない。









吉原は本気になった方が負け。



.







わっちは、




涙を見せた瞬間に







......遊女として









負けたのだろうか。

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