貸出審神者、ブラック本丸に放り込まれる (ページ3)

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　――誰も迎えてくれない本丸は初めてだ。
　いつもだったら刀剣男士達が門の前で迎えてくれるのに。……歓迎されるかは、置いとくとして。
　空気がものすごく悪い。呼吸がしづらいくて、胸が苦しくなる。それでもゆっくりゆっくり進んで玄関の戸を開いた。
　かなり大きな硝子の震える音がしても、こちらに向かう足音は聞こえなかった。
　外からはあんまりわからなかったけど、建物はかなり傷んでいる様子だった。玄関からでも所々床が抜けているのがわかる。

　……本当に、刀剣男士が住んでる場所？

　あまりにも汚い。あまりにも空気が重い。排気ガスを吸ってるみたい。
　どうしてこんな場所になったのか。普通、刀剣男士という付喪神がいる空間は清潔なもののはず。そりゃ場所によって差はあれど、そんなの微々たるもののはずだった。
　流石に素足で歩く気にもなれず、失礼だと分かっていながら土足で上がっていく。キィ、キィ、と床が軋む音は、お化け屋敷を歩いているのと変わらない。

　挨拶、しなきゃだよね……。あんまり行きたくないけど……。

　一歩一歩、床が抜ける恐怖と戦いながら、恐らく刀剣男士のいる部屋に向かう。担当職員かこんのすけが機能していたのか、たぶん私がやってくる事は伝えられているはず。なんとなくどこに居るのかは気配でわかった。
　恐ろしいぐらい静かだった。誰もが息を殺している中、生きているのは、おそらく、私だけ。

　ああやだやだ！こんな事なら断ればよかった！

　ひとつの部屋の前で立ち止まる。この奥から微かに気配が感じるから、この部屋の中に彼らはいるんだろう。
　この本丸がどんな道を歩んできたのかは、本丸の様子を見ればすぐにわかった。だからこそ覚悟を決めるために息を深く吸い込む。

「お邪魔してますー！！今日から暫くお世話になります！！」

　スパン！勢いよく開けられた襖は良い音を立てた。
　瞬間、肌に感じるピリピリとした殺気。ギラギラと光る複数の瞳と目が合った。痛いほど刺さる殺気に身を捩る。ただ静かにこちらの動きを観察している彼らを前に、大声を出すのは失敗したかと考える。多分違うけど現実逃避ってやつ。
　部屋の中にいる刀剣男士の数はそう多くはない。かといって少ないわけでもないけど、顔ぶれを見れば前任がどういった人間性を持っていたのか把握する事が出来た。

「ところでなんですけど、ここってブラック本丸ですか？」