《完結》BorDer 終焉【ars S.S】 (ページ26)

今日:18 hit、昨日:9 hit、合計:264,607 hit

#134 ページ26

全ての記憶は、三年前のまま止まっていた。

翔くんの顔も
潤の声も
世界の景色も

何もかも。

私の知らない間に、三年という月日が流れていた。

硬い病室のベッドで、何を生み出すでもなくただ黙って目を閉じ、点滴で栄養を補給されて生き長らえていた間に

他の人たちは、笑い、泣き、かけがえのない大切な経験をし、世界と周りの人たちの移り変わりをその目で見ていた。

送るはずだった三年もの普通の生活を奪われた。

だけどそれは『奪われた』だけじゃなくて
もしかしたら、『得る』こともしていたのかもしれない。

普通に過ごしていれば、決して得ることの無かった大切なものを。

・

空っぽになった左手を見つめる。

あるはずのものがそこに無いことがこんなにも心を締め付けるなんて知らなかった。

何にも変えようの無い喪失感。
目眩がするほどの居心地の悪さ。

潤にとっての私

翔くんにとっての私

私にとっての潤

私にとっての翔くん

私にとっての

櫻井さん。

あるはずのものが目の前から忽然と姿を消したとき、私は、彼らは、同じように喪失感を抱いていたのだろうか。

目眩がするほどの居心地の悪さを

ちゃんと、感じていたのだろうか。