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それからはあっという間に月日が流れた
クラスの出し物の準備中、
ミス・ミスターコン用の台本の読み合わせ中、
何度も彼女に惹かれ、その度に諦めろと言い聞かせる日々
彼女は奈良坂が想いを寄せる相手。
俺が好意を寄せたら奈良坂を裏切ることになる。
____そうやって自分の気持ちに蓋をした。
『……り。かーたーぎーりーー』
「おわ、ごめん。どうした?」
『どうしたって、……次の次私たちの番』
けれどこうやって前夜祭のコンテストの演技本番を向かえ、舞台袖の暗がりに至近距離でいると
沸騰した鍋の様に全ての想いが溢れかえりそうになる
『緊張する……』
「全員雪丸だと思いな」
『それはそれでちょっと……』
完全に冗談のつもりだった。
けれど彼女は俺の冗談を脳内でそのままイメージしてしまったんだろう。
ぷっ、と吹き出し、くつくつと小さく笑い出す
「ツボった?」
『ツボった。あぁ〜でも緊張ほぐれた〜』
「そう?良かった」
『んふふ〜……じゃ行こっか』
自分達のクラスと、シチュエーションが発表されている体育館の壇上へ。
舞台袖から出る刹那まで優しく手を引かれたままで__
_______________
「……Aはさ、何で俺なんかと一緒にいるの?」
『……どうしたの急に』
「いや、友達いっぱいいるし別に俺と居なくたって」
『え〜私が隆くんと一緒に居たいだけなんだけどなぁ、』
「こんな冴えない奴と?」
『冴えない事はないでしょ、……ほら』
その台詞と一緒に俺の眼鏡を外す彼女
この動作のために予めコンタクトに替え、眼鏡は伊達眼鏡に変更した。
『うん。やっぱり隆くんはかっこいいよ。』
「そんな訳、」
『本当に。あー…でも隆くんコンタクトにしたら皆からモテちゃうか……やだな、』
演技だって分かってるのに
彼女からのその言葉が異常に嬉しく感じてしまう。
「待って、違う」
『何が、って……おわ、』
ギュ
小さな身体を後ろから抱きしめると“ギャーーー!!!”と割れんばかりの黄色い歓声
もちろん動作は台本通りだけど
今から伝える想いも、その真っ赤になった顔も全部演技じゃない
「……ずっとAだけが好きだから」
『うそ、』
「本当だよ。……だから俺と付き合って欲しい」
『……私も隆明がすき』
初めて呼ばれた名前に胸が高鳴るのを感じつつ
彼女の身体を自分の方へ向かせ
口付けをするフリをした
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作者名:八月蝶 | 作成日時:2023年3月16日 16時