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“好き”
奈良坂が放った言葉が頭に蔓延って離れない
「……なんで俺に?」
笑ってもしまいそうなほど掠れた声に目の前の男は心底興味無さそうに“別に、”と口を開く
奈 「最近あいつからお前の話をよく聞いてな。様子を伺っていたら本当に親しそうだったから焦ったんだ」
なぜだろう。
口調が少し演技っぽい気がしてならない。
焦ったと言ったが、これは焦りでもなんでもない。
怒り
憎悪
嫉妬
感じたのはそんな因子ばかり
奈 「だから安心した。片桐にその気があったら色々厄介だと思ってな」
「っ、」
奈 「……後出しはするなよ?」
相変わらず冷淡な表情を浮かべ、こちらを見下す奈良坂
____どうして、
彼女はこんなやつから好かれているんだろう。
優しくて純粋で朗らかな彼女にこんな薄暗い執着なんて似合うはずがないのに。
『ただいま〜……って奈良坂じゃん』
奈 「おかえり」
『奈良坂がおかえりはおかしくない?』
凍てつく空気にゾッとした時、再び開いた教室の扉から入ってきたのは話題の渦中の彼女
本能的に“まずい”と思ったが奈良坂はまるで何事も無かったかのような態度で接する
先程までの虚無の境地にいるかのような瞳はすっかり輝きを取り戻し、心からの優しい笑みを浮かべている
奈 「それ持つよ」
『これ?結の荷物だから大丈夫。』
「結束?」
『さっき歌歩に頼まれた用事の帰りに委員会の先輩が“結束ちゃんが教科書忘れてった”って渡されたんだよね』
「あいつ……。貸して。俺が持ってくよ」
俺が持っていた方が早いし確実だろうと思い手を差し出すと“ありがとう”と満面の笑みを向ける彼女
100%の善意
そのつもりだった
「っ、」
刹那、ナイフのような鋭い視線が突き刺さる
人1人殺めそうなその視線は間違いなく俺に向けられたもの
『……どうした?』
「あ、いや」
動揺で手が震えた俺を心配して顔を覗き込む彼女の後ろで明らかに殺気が向けられた、……が
『んね、奈良坂もミスター出るんでしょ』
奈 「ん?……あぁ」
振り向いた彼女に合わせて何事も無かったかのように消えていく
『さすが天下の美形』
奈 「……別に」
『え〜。私奈良坂の顔立ち結構好きだよ』
奈 「っ、……お前はほんとに」
彼女が寄りかかった机にわざとらしく手をついて距離を縮めた彼の姿を見て脳が警笛を鳴らす
_____“さっさと諦めろ”と。
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作者名:八月蝶 | 作成日時:2023年3月16日 16時