女王の朔望月 (ページ44)

今日:47 hit、昨日:58 hit、合計:109,412 hit

42 ページ44

・

｢……ほんとに？｣

『えぇ』

軽音部の部室の空気を支配する女王様の言葉にいち早く声を上げたのは明星くんだった。

彼は柊さんの腕の中で彼女の顔を見上げ、
返答を聞いた瞬間に目に涙を溜める

｢…俺頑張るよ。この学院を皆がキラキラ出来る場所に変えてみせる｣

掠れた声で必死に言葉を紡ぐ明星くんに感銘を受けたのか氷鷹くんや遊木くんも覚悟を決めた表情となる

｢だからさ、

……革命が成功したらまたステージ上がってよ｣

『っ、』

｢前も言ったけど俺、Aがステージでキラキラしてる姿が大好きだから。また舞台に立ってAの笑顔見せて？｣

それは今さっき彼女から告げられた“革命の後ろ盾になる”と言う言葉の意味の修正にも似た彼からの願い

……私も少しだけ感じた。

後ろ盾。つまり後方支援。
彼女は私たちと革命を起こすのではなく、革命そのものやTrickstarを守り導く役割を果たそうとしている。

アイドルである彼女なら表舞台に立っても何ら遜色はないはずなのに＿＿＿＿＿

『……もういいの』

｢…ぇ｣

『ステージ上がることはもう諦めたの』

そう告げる彼女は酷く悲しげにオレンジの髪を撫で、

明星くんや朔間先輩が引き止めるように何かを伝えようとするが彼女は止まらない。

『……だから貴方たちに全てを託す』

｢Aっ、｣

『ねぇあんずちゃん。』

＿＿＿＿あぁ

コバルトブルーの瞳が私を射抜いてしまった

『……私は放課後あなたのプロデュースのお手伝いをする』

｢放課後、ですか…？｣

未だに抜けない敬語に困った表情を浮かべながらも彼女は優しく語りかけてくれる

『えぇ。……それ以外の時間は騎士に捧げたいから』

そう言って笑う姿はお姫様のようで
彼女にとって騎士がどれだけ愛おしく、大切な存在なのかが痛いほどに伝わる

｢あの、……柊さん。騎士って＿＿｣

『月のように優しく包み込んでくれる人。……私にとっては王子様のようだったけど』

そしてまた悲しげな表情になりながら言葉が紡がれる

『残された時間で少しでも彼に寄り添いたいの』

それは余命宣告にも似たあまりにも悲痛すぎる響き

……そっか。

彼女の中の止まっていた時計が動いたんじゃない。

最後の砂時計がひっくり返されていたんだ。

残りわずかな時間を慈しむために。
お姫様は王子様と共にいることを優先させたんだろう。