女王の朔望月 (ページ3)

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＿＿＿5時
時計の長針が12を指した瞬間に鳴り響くアラーム

ゆっくりと目を開け、身体を起こし、身なりを整えてから自室を出る

この家は言わば日本にある別荘の1つで柊の名の元に作られた。
無駄に広く、無駄に豪華な、無情なまでに冷えきった愛情など欠片もない家

螺旋階段を降りると“おはようございます”と透き通る声と共にお辞儀する執事の姿

『…おはよう。朝早くからごめんなさい』

｢いいえ。貴女に仕える者として当然の事です｣

昔から早起きをしなければならなかった(・・・・・・・・・・)私に合わせてこんな早朝から執務をしてくれる彼は非常に優秀であると本家でも人気の存在だ。

そんな彼が淹れてくれたハーブティーを飲もうとティーカップに口付けた刹那、机上のスマホに光が灯る

【おはよう〜】

【頑張って起きたよ〜褒めて〜】

【知ってる〜？今日転校生来るんだって〜】

【2人目の女の子でプロデューサーだって】

【Aなら仲良くなれるよ】

【だから早くおいで】

【ねぇA。俺は今日も待ってるからね】

ポン、ポンとスマホに次々に送られてくるメッセージ

送り主はかつて暖かな太陽のように微笑みかけ、優しい月のように見守ってくれた人

私は彼との約束を破ったのに、彼は毎日の様に沢山のメッセージを送ってくれる

＿＿＿＿＿例え、私からの既読が付かなくても

その罪悪感に目を瞑りティーを1口喉に流す。

すると今度は別の人物のメッセージでスマホが灯される

【愛おしい女王陛下】

【新しい何かが動き出すヨ】

【A】

【もう一度、一緒に始めよウ】

壊れた私の時計はあの日からずっと止まったまま動かない

＿＿＿＿けれど。それでも時は進むらしい

これから物語に加わる新たな1ページに私は必要なんだろうか

『(……いや、まさかね)』

1歩ずつ。それでも確かに足を進めた彼と、彼たちと違って停滞した私は確実に出来損ない(・・・・・)

才能溢れる彼らに合わせる顔はない

そう思い、自嘲的な笑みを零してスマホを裏返す

｢……お嬢様｣

『ごめんなさい。はしたなかったわね。』

｢いえ、そうではなく。……どうかご無理だけはなさらないで下さいませ。｣

『……そうね』

“転校生”、“新しい何か”

少しだけ気になる単語を頭の中から消し、ハーブティーで心を落ち着かせる

もう2度と誰かを傷つけないように

私は今日も孤独の城(この家)に閉じ篭る