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心地いい柔らかな音がする方へ身体が惹き付けられる

よろよろと身体を動かして音の方へ誘われればそこには“音楽室”の文字




「(……上手だなぁ)」

アイドル科にいる以上、音楽に強い生徒がいるのは全くもって不思議なことじゃない。

…けど、なんて言うのかなぁ
こうクラッシク系に精通しているイメージはあんまり無いというか

アップテンポな曲ばかり扱うものだと思ってた




「(……でもなんだっけ。この曲)」

ピアノを習っていた訳でも無いがこの曲はどこかで聞いた事がある。

なんだっけ、

痒い所に手が届かないような、喉元からつっかえが取れないようなもどかしい感覚になり、必死に思い出そうとするも思い出せない


「ぁぁあ…」

「月の光だネ」

「うおおぉ!!」


唸りを上げた瞬間に肩を掴まれ、語尾のイントネーションに違和感を覚える声で話しかけられる

あまりの驚嘆にバッと振り向けば“母音が多いネ”と呆れ笑いを向けらた


赤髪が特徴的な彼は確か、同じクラスの__


「えぇ、っと…」

「逆先夏目だヨ。子猫ちゃん」

「子猫ちゃん……?」


語尾だけでなく呼称も奇妙なのか、

この学院の人たちは常々個性が強くてびっくりしてしまう



「……月光じゃないのは珍いネ」

「あぁ、の弾いてる人知ってるの、?」

「大体の検討は付くけド。……それより君迷子でしょ?」

「ア、ソウデス」


ピアノ聞いてる暇ないんじゃなイ?、と浮き足立った思いを地上までめり込ませてくる逆先くん。

現実離れした雰囲気を持っているのに思考は超現実的らしい



「そんなキミに取り引きダ」

「と、取り引き…?」

「そウ。ボクの質問に答えてくれたら教室まで戻る道を教えてあげル」

「願ったり叶ったりです!!」


“取り引き”なんて重々しいワードに一瞬身構えたものの、内容の軽さで直ぐに首を縦に振ってしまった。

けれどそれも一瞬の事で、我に返って1種の疑念が生じる




「(……この人が聞きたいことって何、?)」

人の事を“子猫ちゃん”なんて呼ぶような彼だ。

世間一般で転校初日の人にするであろう質問はしてこない事に今になって気づいた


教室に戻れる事に安堵したのも束の間、今度は得体の知れない不安に駆られる羽目に




「(…ま、スリーサイズ以外ならいっか)」

「間違ってもそんな事は聞かないヨ。」

「エ」



……あぁ本格的に怖い

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作者名:八月蝶 | 作成日時:2023年3月3日 23時

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