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空は紺青に染まりきり、星が点々と輝く
俺の目に映るのはピアノと窓の外に浮かぶ青白い円形
昨日見た夢____あの日と同じ光景
「(……結局来ちゃった)」
昨日の一件であれこれ考え、一時は来るのを断念しようとした
……けど
「(…まーくんにあんな事言われちゃったらなぁ)」
“俺たちが行かない事には絶対に会えない”
仮に何万分の1の確率で今日彼女がここに現れたとして、俺が来なかったら結局会えないまま
一時の挫折で可能性をへし折るな。そう言いたいんだろう
前向きな彼らしい。
ご丁寧に“夜間特別教室使用許可証”なんて物まで取ってくれて、挙句“2人の再会に邪魔が入らないように”って笑ってくれた
「(……ほんと、敵わないねぇ)」
隠しきれない笑みを零してあの時と同じ様にピアノまで近寄り、鍵盤蓋の上を覗くもそこには何も無い。
……当たり前か
心拍数の上がる心臓に気づかない振りをし、ピアノを開けて椅子に座り譜面ファイルを開く
ファイルの中には彼女が好きと言った曲、彼女と一緒に弾いた曲、演奏した曲_____つまり彼女との思い出の譜面が詰まっている
逆にそれ以外は入ってない
何を弾こうか、とファイルに手をかけようとした刹那
パラパラとファイルがめくれる
不用心にも開けたままになっていた窓から入りこんだ風はファイルを捲り、数ある中から1つだけを選び抜いたらしい。
「……ノクターン、ね」
ノクターン____彼女と出会った日に弾いていた曲
あぁ、懐かしい
鍵盤に手を乗せた瞬間に導かれる様に手が動く。
思い出されるあの日の事
兄者から逃げる様に夜の学校に忍び込み、今みたいにこの曲を弾いていた時に彼女が現れたのだ
_____綺麗な音色。私その曲が大好きなの。
なんて慈しむような瞳を向けて。
_____凛月
…あ〜あ。
ついに幻聴まで聞こえるようになっちゃった
どれだけ会えなくても俺の脳は彼女の声がハッキリと鮮明に覚えているらしい
とんだ重病だ。
沼にハマっていく自分自身を嘲るように、未だパラパラと捲れる譜面の方へ視線を上げた時、
「………ぇ」
視界の端で何かが揺れた
動揺で手が止まり、それを凝視するも暗がりで良く見えない。
けれど、それは月明かりに照らされる中、1歩。また1歩と近づき徐々に形を鮮明にさせていく
『凛月』
____そう呼ぶ声は幻聴じゃなかった
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作者名:八月蝶 | 作成日時:2023年3月3日 23時