勿忘草の丘５.【オリジナル長編小説】 (ページ41)

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221話銭湯の帰り道ページ41

【世羅視点】

銭湯からの帰り道、俺達は雪山のお陰で比較的涼しい商店街の道を歩いていた。

銭湯を出た後も未だに火照っているロックの頬に、氷魔法で軽く冷やした俺の手の甲を当てよう

としたが、今回は並んで歩いているため身長差で手が届かない。

それを見たバトラーやエル達は、笑いを堪えて口元に手を当てる。爆笑している一矢については

マジで覚えとけよ。お前も同じようなもんだろうが。

しばらくすると落ち着いたのか、こっちに来たバトラーは俺の身体を持ち上げて、丁度いい高さ

に調整してくれた…… って、皆の前で何しやがんだ。離せ。

「……ったく、おい一矢。てめぇさっきはよくも」

「ごめんごめん！世羅があんまりにも面白かったから、つい……」

「はいはいそーですかい。明日はAが帰ってくるんだから、ちゃんと心の準備しとけよ？」

「なっ、そんな事分かってるし！」

周りに聞かれないように声を潜めて耳打ちすると、一矢は急に頬を染めて俺を突き放す。

からかったのはお互い様だから、これで五分五分だろ？

林の探索に行った時に、頃合いをみて告ったならいいんだが…… 結局どうしたんだろうな。

側にいた勇助に泣きつく小さな背中は、これでも成長した方なのか。正直言ってしまうと、何故

か姿がよく似ているアレンとの身長を比べるだけでも、意外と差がある。

そういえばアレンのやつ、ミリヤのところに行くって言ってから顔を見てないな。

「アレンならまだ紅茶でも飲んで、ゆっくりしてるんじゃないの？」

「あいつは誰が相手だろうと問題なさそうだからな…… まぁいいや、アレンはバトラーが帰る頃

に呼びに行く。それで、Aはいつ頃に着きそうだ？」

「割と順調らしいから、早ければ夜明け頃に着くみたい。ちょっとゆり姉にきいてみるわ」

アレンのことを思い出した直後、突然俺の横っ腹に鉄肘を食らわせてきた紗羅。

素知らぬ様子でそっぽを向いているが、金髪になりかけたポニーテールの毛先を見れば、読心術

の魔力を抑えているのはすぐに分かった。

柔らかい毛先に触れ、絹のような髪になんとなく指を通せば、俺の手は何処にも引っかかること

なくすり抜けてしまう。直後、紗羅に気づかれて鳩尾を軽く殴られた。

頬を膨らませて向こうへ歩いていく紗羅と共に、雷華の行方を探るためにも百合亜の元へ急ぐ。

ひどく寂しげな背中を見つけた俺達は、夏風に白髪をなびかせながら地を蹴った。