勿忘草の丘５.【オリジナル長編小説】 (ページ30)

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210話藪から出てきた湖の神ページ30

【勇助視点】

ほんの数分前に森へ入った僕達は、木々の隙間から吹く冷たい風に身を縮めながら、現在の目的

地である百合亜さんの家へ向かう。紗羅は、家へ帰るついでに僕の母親に会いたいんだって。

「勇助の母ちゃんってどんな感じの人なんだろうなー」

「どうなんだろうね。幻だった方の母さんよりも、ずっと元気な人みたいだけど…… 一矢のお母

さんはお淑やかな美人さんだよね」

「うーん、父ちゃんと比べれば静かな方なんじゃねぇの？世羅達なら知ってるだろ、おい」

「まぁ確かに、恥ずかしがり屋で静かな奴だったけど、椿って怒ると怖いもんなー」

………僕の本当の母さん。今、何をしているのかな。

僕達を異世界に飛ばしてまで守りたかった物は、何だったんだろう。

例え母さんが神様だったとしても、幻か何かでできた偽りの母親なんて使ってほしくなかった。

部活中に初めて倒れた休日の練習の日、あの日から幻の母親はいなくなり、何処から送られてき

たかも分からないような手紙が届いたりするようになった。

生活費もその封筒に入っていたから、食べ物とかには困らなかったんだけど、町内の集金とかは

僕が気づかないうちに終わっている事が多くて、正直言うと不気味。

僕の力が覚醒しかけているから、期限みたいなものが切れたのかもしれない。

お化けのような霊の気配はしなかったから、世羅達がなんとかしてくれたのかも。

やっぱり、僕は皆に迷惑をかけてばっかりだ。

それに、あんな事をするくらいなら、孤児だったほうがよっぽど……

ガサガサッ……！

「あ、雫っ！」

「紗羅……！貴女、なんでこんな所にいるの！？」

「勇助を連れて貴女に会いに行くところだったのよ。それよりどうしたの、こんなに焦って」

「森野神社のシロコ達が急に、真っ黒な悪霊になったの…… 助けてくれない？」

「シロコって確か、あの大福みたいな精霊達の事よね。黒といえば心当たりがあるし、丁度森野

の神社に行くところだったから、良いわよ。シロコ達の様子を見に行きましょう！」

「ありがとうっ！じゃあ早くこっちへ！」

「はいはい。千年近く生きてるカミサマでも、どうしようもない事ってあるのねー」

雫って確か、僕の母さんの友達の名前……

母さんも、ここにいるの？

「おい勇助、早くいこうぜ」

「……あ、うん。行こうか」