勿忘草の丘５.【オリジナル長編小説】 (ページ13)

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193話赤茶髪の踊り子ページ13

【雷華視点】

ふんわりと鼻につく、微かなラベンダーの香り。

寝返りをうつたび、シーツの柔らかい感触が伝わってくる。

耳に入る静かな風の音が、懐かしい。

ついさっきまで、私は夢を見ていた。

どこかも分からない市街地で、誰かに貰った真っ赤なバンダナを頭に巻く幼い私。

色あせた赤レンガの地平線から、もう顔も思い出せない人の気配がする。

珍しく曇った空の下、賑やかな道の中を、私と同じ赤茶髪の少女が走ってきた。

６つぐらいの年の、長髪の少女が２人。いつの日の光景だったか。

踊り子を目指しているらしいあちらの少女は、私と手を繋いで、楽しそうにぐるぐると回る。

そんな事を繰り返すうち、踊り子の少女の足が消えかかっていることに気づいた。

驚いて顔を上げると、前髪で顔が隠れた少女は、にこりと笑って＿＿＿＿＿

『どうして私を置いていったの？』

その直後、夢の映像はぷっつりと途切れてしまい、目を閉じた時の真っ暗な光景が広がった。

それからしばらく寝転がっているのだが、胸の奥のわだかまりは一向に消えないままだ。

今度は誰かが、私のことを呼んでいた。はっきりと覚えている、聞き慣れた親友の声。

「雷華、もうお昼すぎよ。起きなさい」

「ん、百合亜？しかも何処だよここ……」

「アルメリア王城の空き部屋を貸してもらっているのよ」

「へー。さっきまで王都の広場にいたのに、早いなぁ」

「まぁ、あのまま王族に助けてもらえなかったら、世羅が…… ね？」

「ははっ、突然視界が暗くなったのは、王族が何かしらやって助けてくれたからなのか」

「そういうこと。かくまってもらっている、と言った方が正しいわね」

百合亜は深いため息をつき、私をベッドから引きずり下ろす。

まぁ、引きずり下ろすといっても百合亜は体力がないうえに非力だから、結局降ろすことはでき

なかったんだけどな。はっはっはっはっは。

急な来客を泊める部屋としては豪華すぎないかとも思ったが、部屋にあったベッドは７つほど。

あと、大きめの黄色いソファーが一つ。

すでに大分多いのだが、こちらもこちらで人数が多いので、やはり少ない気もする。

それにしてもアルメリアの王族は、どうやってここに私達を運んだのだろうか。

確か、サイネリアの王族と違って魔法が使えないと聞いた覚えがあるが。

よし、百合亜にきこう。

「……サイネリアでも、魔法を扱えるのは今の王子王女だけよ？」

『え』

「え？」