貴女に惚れた8 ページ11
ヒュルリ、と風が吹いた。太宰の外套と俺の髪が風にはためく。俺も太宰も、一歩も動かない。
何時もの俺なら何十分も何時間もそうして居れただろう。だが今日は生憎と疲れている。早く帰って熱い湯に浸かりたい。
太宰をこのまま振り切ろうか、そう考えていた時だった。ずっと俺を半ば睨む様にして見つめていた太宰が口を開いた。
「貴方は…探偵社の敵ですか」
「…貴様はもっと頭が回ると思っていたが…所詮はその程度か」
太宰の発した言葉が余りにも期待外れだった。呆れた様にそう云う俺に太宰は僅かに眉を寄せる。
…だが俺もそこまで心が狭い訳では無い。この俺の情報を探し当てただけでも讃えるべきだろう。
「これだけは教えてやる」
「俺は探偵社等に興味は無い。与謝野女医が其処に居るから逢いに行く、ただそれだけの事だ」
別に探偵社だから、と云う事は無い。与謝野女医が何処で働いていても逢いに行く。
「何故、そこまで与謝野さんに執着するんですか」
目の前の男がそう問いかけて来た。至極簡単な事だ。今更、と云う気もする。
「俺が彼の人に惚れたからだ」
俺はそれだけ云うと歩き始めた。太宰の横を通り過ぎた時、云い忘れていた事があるのに気が付く。
「これは忠告だ、詮索好きな小僧」
「俺にこれ以上深入りするな。次は無いと思え」
そう云い放ち、俺は今度こそ振り返らずに、ヨコハマの闇へと身を交えていった。
月が、煌々と街を照らす晩の事であった。
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Asterisk@あーちゃん(プロフ) - 『鳳』って、与謝野晶子女史の旧姓ですよね!! (2019年5月14日 22時) (レス) id: 13131826f9 (このIDを非表示/違反報告)
Asterisk@あーちゃん(プロフ) - コメント失礼致します。凄いです、こんな小説を探していました…!主人公が鉄幹さんなんて、凄く素敵です!! (2019年5月14日 22時) (レス) id: 13131826f9 (このIDを非表示/違反報告)
藍斗(プロフ) - 続編希望です! (2018年7月30日 10時) (レス) id: 2f591e73cb (このIDを非表示/違反報告)
雨(プロフ) - 1 (2018年7月27日 17時) (レス) id: cd068f5c5f (このIDを非表示/違反報告)
ふみ(プロフ) - 1 (2018年7月27日 13時) (レス) id: 6ed63001fe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ペンギン屋 | 作成日時:2018年7月9日 23時